フランツ・カフカ
Franz Kafka (1883-1924)

 カフカのエクリチュールは、大まかに言って三つに分けられると思う。一つ目は生前カフカ自身が発表した作品で、これは全部短篇か中篇。二つ目は死後、遺言に背いて世に出された小説で、三つの長編を含む。三つ目は膨大な量の日記と手紙で、これも出版を目的に書かれたのではない。

 で、じつはこの三つ目のものが面白い。書かずにはいられなかった人間という意味で真の作家であったカフカが、作家ではないときにどのようなものを書いていたのかをそれらは明らかにしてくれるのだけれども、そこには書くということの本性が現われているように思えるのです。池内氏にはこの三つ目の部類も訳してほしいなあ。


<著作(生前に発表したもの)>

ほとんどが角川文庫の『ある流刑地の話』に収められています。『変身』だけしか読んでいないなんて、文学の「ぶ」の字もまだ読んでいないようなものよ。

『二つの対話』(1909)(破棄された作品『ある戦いの記録 Beschreibung eines Kampfes』から)

Betrachtung 『観察』(1913)

Das Urteil 「判決」(12/22-23/1912執筆、1913)

「火夫」(1913)

Die Verwandlung 『変身』(1915)山下肇訳、岩波文庫、1958年。中井正文訳、角川文庫、1997年。

Ein Landarzt 『村の医者』(1919)(「掟の門前」「父の心配」など)

In der Strafkolonie 『ある流刑地にて』(1919)

Ein Hungerkunster 『断食芸人』(1924)


<(死後焼却するよう遺言された)遺稿>

ここでは、新しい校訂版の全集を底本にした池内紀の全訳が刊行中。まだ読んでないけどね。

「ある犬の探究」(1924?)

Der Verschollene 失踪者(アメリカ)』(1912着手、1927)池内紀訳、白水社、2000年。

Der Prozess 『審判』(1925)池内紀訳、白水社、2001年。

Das Schloss 『城』(1926)池内紀訳、白水社、2001年。


<日記・手紙>

じつは全集の大半をこの部類が占める。翻訳もなかなか良い。ユーモア溢れる手紙たちはほほえましいどころかやはり痛々しい。え? 覗き見趣味だって?

カフカ全集7 :日記マックス・ブロート編、谷口茂訳、新潮社、1981年。

カフカ全集8 : 『ミレナへの手紙マックス・ブロート編辻セイ訳、新潮社、1981年。

カフカ全集9 : 『手紙 1902-1924マックス・ブロート編吉田仙太郎訳、新潮社、1981年。

カフカ全集10,11 : 『フェリーツェへの手紙マックス・ブロート編城山良彦訳、新潮社、1981年。

カフカ全集12 : 『オットラと家族への手紙H・ビンダーK・ヴァーゲンバッハ編柏木素子訳、新潮社、1981年。


<翻訳アンソロジー>

『ある流刑地の話』本野亨一編訳、角川文庫、1963年。(『観察』『村の医者』『断食芸人』などを収録)

『カフカ短編集』池内紀編訳、岩波文庫、1987年。(「掟の門」「火夫」など収録)

『カフカ寓話集』池内紀編訳、岩波文庫、1998年。(奇妙な動物たちの話)

『夢・アフォリズム・詩』吉田仙太郎編訳、平凡社ライブラリー、1996年。(手紙や日記)


参考・関連>

マックス・ブロート『フランツ・カフカ』辻セイ訳、みすず書房。

バタイユ『文学と悪』山本功訳、ちくま文庫。

カミュ「フランツ・カフカ作品における希望と不条理」(『シーシュポスの神話』清水徹訳、新潮文庫。)

ヴァルター・ベンヤミン「カフカ」(『ボードレール』岩波文庫。)

アドルノ「カフカ覚え書き」(『プリズム』竹内豊治ほか訳、法政大学出版局。)

モーリス・ブランショ『文学空間』、粟津則雄・出口祐弘訳、現代思潮社、1962年。

ブランショ「文学と死ぬ権利」ほか、『焔の文学』、2000年。

ブランショ『カフカ論』粟津則雄訳、筑摩書房、1977年。

ボルヘス「カフカとその先駆者たち」藤川芳朗訳(『カフカ論集』国文社。)

ドゥルーズ&ガタリ『カフカ、マイナー文学のために』宇波彰ほか訳、法政大学出版局。

ジャック・デリダ『カフカ論:掟の門前をめぐって』三浦信孝訳、朝日新聞出版、1988年。

ミラン・クンデラ『裏切られた遺言』西永良成訳、集英社、1994年。


戻る

ホーム