ランボー
Arture Rimbaud (1854-91)

地獄の季節

イリュミナシオン

その他韻文詩


また見つかった
何が ――永遠が
それは太陽にとろけた

Elle est retrouv
Quoi? −L'et rnit
C'est la mer mel e
Au soleile


 アルチュール・ランボーは、二度死にました。37歳で病没する前に、20歳ぐらいで一度文学者とし
て死んでいます。16歳の時から書き始めた詩を捨てたのです。

感覚 Sensation

青い夏の夕暮れには、小道伝いに
麦にちくちく刺されながら細い道を踏みにゆくんだ
夢見ながら、ひんやりとしたその冷たさを足元に感じるんだ
帽子もかぶらぬこの頭を吹く風に浸しておくんだ

もう何もしゃべらない、もう何も考えない
ただ限りない愛だけが魂に湧いてくるんだ
ぼくは行くんだ、うんと遠くへ、ジプシーみたいに
自然のなかを、――なんという楽しさ、こいつはまるで女連れだ


 ランボーが16の年に普仏戦争が起こると、彼は学業を捨て、激動のパリへと家出をします。翌年、四度目の家出をした後、友人に「見者の手紙」と呼ばれる手紙を書き、混乱した時代の中で考えた新しい詩法を打ち明けます。


 見者であらねばならぬ、自分を見者たらしめねばらなぬ、とぼくは言うのです。

 詩人は、あらゆる感覚の、長期に渡った、大がかりな、そして合理的な錯乱を通じて、見者になるのです。ありとあらゆる形態の愛と、苦悩と、そして狂気。自ら自己のうちにある全ての毒を探究し汲み尽くして、その精髄のみを保存しうようとするのです。筆舌に尽くし得ぬ責め苦、そこにおいて彼は、あらゆる信念、あらゆる超人的な力を必要とし、極めつけの偉大な病人、偉大な罪人、偉大な呪われ人になって、ついには――至上の学者となるのです! ――なぜなら彼は未知のものに到達したからなのです! 彼はもともと豊かだった自分の魂を、他のいかなる魂にも増してさらに養い育てたのですから! 彼が未知のものに到達して、錯乱し、ついには自分の見たヴィジョンの見分けさえつかなくなった時、まさに彼はヴィジョンを見たことになるのです! 前代未聞の、途方もない事象を跳躍していくその運動の過程でくたばったところで何でしょう。他の恐るべき働き手がやってきて、他の者が倒れた地平線から、彼らは仕事を始めるでしょう!


 もう秋か! −しかしなぜ永遠の太陽を惜しむのか、俺達は聖なる光の発見に志す身ではないのか、−季節季節のうえに死滅する人々からは遠く離れて。

 十九歳のランボーはヴェルレーヌと別れた後、自伝的散文詩集『地獄の季節』を完成させます。これは、ヴェルレ−ヌとの地獄的な愛憎の体験と、その挫折を描いているという説もありますが、彼の精神の劇を表現したものであることには違いないでしょう。「不可能」や「閃光」、「朝」など九章からなるこの詩集の最後の章が「別れ」です。


 そして俺は冬を恐れる、冬は慰安の季節だから。

 ――ときおり俺は、大空に、喜びに満ちた白色の国民に覆われた、果てしなく広がる浜辺を見る。俺の頭上で、金色の大きな船が、朝のそよ風に色とりどりの旗をひるがえしている。俺は、あらゆる祝祭を、勝利を、劇を創造した。新たな花々、新たな星々、新たな肉体、新たな言語を創造しようとした。超自然的な力を獲得したと思った。ところがなんだ! 俺は今、自分の想像力と数々の思い出を葬らねばならない。芸術家の、物語作者の、すばらしい栄光は奪われるのだ。

 この俺がだ! いっさいの道徳を免れ、博士(マージュ)とも天使(アンジュ)とも自称した俺が、果たすべき義務を探し求め、ざらざらした現実を抱きしめるべく地上に戻されるのだ! 百姓だ!

 俺は騙されているのだろうか? 俺にとって、慈愛とは死の兄弟なのだろうか?とにかく俺は、嘘を糧にして生きてきたことの許しを乞おう。そして出発だ。

 だが、友の手など一つもありはしない。どこに救いを求めるのだ?

 ランボーの最後の作品群が『イリュミナシオン』です。これも散文詩集で、彼の全作品の中で最高傑作と言ってもいいものです。見者(ヴォワイヤン)の詩法によって彼の魂がとらえた世界を、色とりどりの版画のように描いています。
 ランボーは『イリュミナシオン』を完成させた二十歳頃、文学に完全に見きりをつけ、
やがて商社員としてアフリカに渡ります。そこで彼はあちこちを歩き回り、右脚にできた癌性腫瘍がもとで三十七で死にました。


夜明け Aube

 ぼくは夏の夜明けを抱いた。
 宮殿の正面ではまだ動くものはなかった。流れは死んでいた。野営した影達は森の道を離れてはいなかった。ぼくは歩いた、生き生きとした温かい息吹きを目覚めさせながら。すると宝石たちが目をこらし、翼が音もなく舞い上がった。

 ぼくを最初に誘ったのは、すでに冷たく青白いきらめきに満ちた小道で、ぼくに名を告
げた一輪の花だった。

 ブロンドの滝(ヴァッセルファル)に微笑みかけると、彼女は樅の木の向こうで髪を振り乱した。銀色の梢にぼくは女神の姿をみとめた。

 それからぼくは一枚一枚ヴェールを剥いでいった。並木道では腕を振りながら。草原を横切り、雄鶏に彼女のことを告げながら。大きな町に来ると、彼女は鐘楼やドームの間に逃げ込んだ。ぼくは大理石の河岸を乞食のように駆けながら、彼女を追っていった。坂の上の、月桂樹の林のそばで、ぼくは集めたヴェールを彼女に巻き付けた。そのときぼくは彼女の巨大な肉体をかすかに感じた。夜明けと子供は、森のふもとに倒れた。

 目が覚めると、正午だった。

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