ニール・ヤング90年代以降のアルバム

Neil Young & 'Crazy Horse', Ragged Glory (Sep.1990,Reprise)
『傷だらけの栄光』

 80年代の音楽的彷徨をおえて再びクレイジー・ホースと組んで作った傑作アルバム。ひさびさの会心作であり、『Live Rust』以降のベストアルバムという意見もある。ともかく、ニールがシーンに完全に復帰したという意味での第三期の代表作なのは間違いない。

 

Neil Young & 'Crazy Horse', Weld (Oct.1991,Reprise)  Amazon.co.jp アソシエイト

 ライブアルバムの傑作。ノイジーでパッショネイト。 うねりをあげるニールの轟音ノイズギターにクレイジー・ホースの熱狂的な演奏が加わって、まさに一世一代ともいえる空前絶後のライブパフォーマンスが繰り広げられる。ヤングはこのツアーのためにトレーニングをかかさず、肉体的にも全開状態でのぞんだらしい。まれにみる爆音ライブだったために、ツアー後ヤングは耳を壊した。
 89年からニール・ヤングのロックシーンへの完全復活は予見されつつあっただろうが、それがこのような突然の絶頂期を迎えようとはファンの誰も思わなかったのではないだろうか。しかしこのツアーが行われた時期には湾岸戦争が勃発しており、ニール・ヤングは怒りと抗議の姿勢を表明し、それがこのパワフルさでもって説得力を増していった。
 ロックが下火になっていたところにこの強烈なアルバムの登場は絶大な支持を受けた。またこれで彼は当時盛んになりつつあったグランジの始祖として再認識されることとなった。

Neil Young & 'Crazy Horse', Arc(1991,Reprise)Amazon.co.jp アソシエイト

Harvest Moon (Oct.1992,Reprise)

ハーヴェスト三十周年を記念して作られた続編のようなもの。まあまあ。

Lucky Thirteen(1992,Geffen)


Bob Dylan, 30th Anniversary Concert Celebration, 1993/08/24

 1992年に行われたボブ・ディランの30周年記念コンサートにニール・ヤングは出演し、「Just Like Tom Thumb's Blues」と「オール・アロング・ザ・ウォッチ・タワー」を演奏した。どちらもこのコンサートでのハイライトと言えるテイクだった。まあ、ほかの出演者がボブ・ディランを褒め称えるためにでて、おとなしめにしているのに、ニールだけはディランと対等にやり合えるからかどうかは知らないけど、同時にジミヘンへのオマージュも捧げているんだもの。だからこそ、あの「オール・アロング・ザ・ウォッチ・タワー」の感動なのだと思います。
 ちなみに1992年のニールの活動はすさまじく、アメリカの『SPIN』という音楽雑誌のベストイヤーアーティストに選ばれたりもした。ちなみに、フラナリー・オコーナ事件で話題になったこのコンサートの模様はNHKの放送で当時見た記憶がある。この時ぐらいから同時代のディランやニールを知ることができるようになった。というか、このときぐらいが彼のファンになった年なんだよね。

Unplugged (1993,Reprise)


Philadelphia, 1994

 1993年に公開されたジョナサン・デミの映画のサウンドトラック。映画のサントラにしては夢のように豪華なメンバーが並んでいるが、ニールも参加しており、「Philadelphia」を歌っている。これはブルース・スプリングスティーンの「Streets Of Philadelphia」とアカデミー作曲賞を争った。同一の映画のなかでオスカーを争うなんてあんまりないことだと思うんだけど、それよりもオスカーの授賞式にブルースとニールが演奏するってのも二度とありえないだろうと思う。ま、パフォーマンスはニールのほうのが上だったんだけどもね……。ところで、ジョナサン・デミにはニールをとったドキュメンタリー作品なんかもこっそりあったりする。
 このオスカーのセレモニーは中継かなんかで見たと思うんだけど、思えば当時はよくロッカーが普通のテレビ放送(主にNHKだけど)によく登場していたなあ。懐かしのバンドの再結成があいついだりしたりして、60年代ブームが起こっていたのだったかもしれない。最近はロックにめっきり脚光があたらなくなって、さびしいかぎりですな。


Neil Young & 'Crazy Horse', Sleeps with Angels (1994,Reprise) Amazon.co.jp アソシエイト

 ニルヴァーナのカート・コヴァーンの自殺 ののちに発表されたために、「カート追悼アルバム」と呼ばれることもある。しかし彼の死が伝えられたのはこのアルバムの収録の最中で、彼のことを直接示唆するのはタイトルトラックだけだ。しかし、確かにこのアルバムには彼のほかのアルバムにはない沈鬱な雰囲気があり、どの曲もなんだか深い霧のなかから聞こえてくるような感じだ。
 これは一種の幻夢的なコンセプト・アルバムのように作られている。「夢の彷徨」というラス曲もアルバムタイトルにふさわしいような気もする。カントリー・ロックからバラード、グランジまで曲の幅は広いんだけど、同じテーマや歌詞が反復され、さらにはなんとチューンまで反復される("Western Hero" と "Train of Love"のこと)ので、不思議な統一感をだしている。こうした手法は採用されることの少ない手法であって、ニールにとっても、『トゥナイツ・ザ・ナイト』や『オン・ザ・ビーチ』以来のものだろう。70年代前半のあの暗黒三部作のようなダークなニールの側面が20年ぶりに再び全面に出た作品だ。といっても、『トゥナイツ・ザ・ナイト』のように、ルーズな演奏ではなく、クレイジー・ホースとのしっかりとしたコンビネーションによって演奏されている、案外緻密な作品でもあるように思える。
 ニール・ヤングほどロックのダークな側面を取りあげることをためらわなかった人はいないと言われるのだけれども、確かに、ここには闇に深く潜ってそこから発信してくるニール・ヤングがいる。そういう人物が同時代にいるということ、それは確かに一種の救いであって、このアルバムが今でも特別な輝きを放っている理由なのだ。


Mirror Ball
(1995,Reprise) with 'Parl Jam'

 グランジの元祖と呼ばれるヤングがグランジを代表するバンドパール・ジャムをバックに従えて作ったアルバム。90年代のスタジオ作品の中では『Ragged Glory』と並ぶ代表作

 

Dead Man(1995,Vapor)


Neil Young & 'Crazy Horse', Broken Arrow(1996,Reprise)

 90年代の彼のアルバムのなかでは少し評価を下げる。ここに収録された曲のいくつかは次のライブアルバムにも収録されている。

 

 


Crazy Horse,, Crazy Moon, January 1, 1997

 1978年のCrazy Moonとどうちがうのかよくわからないけれど、どうやら7つのボーナス・トラックが追加されたものらしい。どうせ買うのならこちらをどうぞ。


 


Neil Young & 'Crazy Horse', Year of The Horse (June 17,  1997,Reprise) Amazon.co.jp アソシエイト
『イヤー・オブ・ザ・ホース』

 これはジム・ジャームッシュがニールを撮った映画のサントラ……と言うよりかは同名のライブアルバムだ。映画では9曲が収録されているけれど、こちらは12曲で選曲も違う。「ミスター・ソウル」をのぞいて代表曲は避けられているので、ニールのほかのライブアルバムを持っている人もこのアルバムを聴く価値は十分にある。個人的には『ウェルド』のような熱狂的な演奏の方が好きだし、ジャームッシュの映画でもそのときのを撮っていてくれればなあとは思うけど、まあ、ちょっと落ち着いた感のあるここでの演奏もそんなに悪くはないかもしれない。
 というわけで、立ち入った評価は避けるけれど、『ズマ』からの二曲の選曲や『カムズ・ア・タイム』の「Human Highway」や『ライフ』からの「When Your Lonely Heart Breaks」や前作の「Slip Away」と「Big Time」のライブテイクなど、コアなファンなら楽しめることは間違いない。あんまり映画の雰囲気はないのでそこんとこはあしからずということで……。

Year of the Horse, 1997
『イヤー・オブ・ザ・ホース』

 『デッドマン』でも組んだジム・ジャームッシュがニール・ヤングとクレイジー・ホースのツアーに同行しつつ撮ったドキュメンタリー映画。ジム監督はかなりニールのファンらしく、その思いは映画からも十分伝わってくる。ところどころ過去の映像が挿入されるが、その使い方が絶妙なのである。ダニー・ウィットンはもちろんでてくるし、David BriggsやBruce Berryも出てくるし、彼のことを歌った「トゥナイツ・ザ・ナイツ」の映像もある。映像は16ミリで荒いが、演奏は別取りになっている。
 この映画で感動的な点はいくつかあるが、ニールらが歌っている97年当時の姿が20年や10年前の彼らの姿と入れ替わり、また元に戻るといった手法をあげる人が多いだろう。とくに「ライク・ア・ハリケーン」の映像なんかがそうだ。ほかには、ニールとクレイジー・ホースの面々が音に関してやりとりしているところなんかも面白い。「そうじゃない」「いや、そうだ」云々とお互いに一歩も引かない彼らのやりとりには緊張感があって、なるほどこういう連中だからこんな音が出せるのかなとも思わせる。印象深かったのはテーブルにおいてあった紙の花を彼らが燃やしてしまうところで、いい年になったオッサンなのにほんと彼らは子供みたいなところがある。
 インタビューや日常風景も楽しいのだけれど、やはりこれは音楽映画として素晴らしいだろう。上にあげた二曲の他、「セダン・デリバリー」や「Barstool Blues」など、彼らにとってその曲も最良のクリップと言えるものが収められている。このギター・ノイズの嵐を劇場の轟音の中で聞くことができた人はそれは幸せなのだ。
 「これを見て、宗教を思い、狂気を思い、地獄とさえ思ったが、ジムがこのニールに夢中の、このフィルムを見ているうちに“真実”“真心”が次第に伝わり、芸術の何たるかが電気さながらに私の全身に感染して、モノゴトの真実の厳しさに、このバケモノ映画が今さらに八十九歳のこの私を目覚めさせた。狂気、狂気、狂気。しかし、ここには生きた人間の使命が爆発していた。ロックだけの映画ではない。これが、映画だ。」と晩年の淀川さんはこの映画に寄せている。まあ、ニール・ヤングなんてほとんど知らないだろうしロックも聴かない淀川さんがそう感じたのはほんとすごいけど、確かに彼らの姿にはロックを通して芸術や宗教、人間の真のタマシイに近づいているとさえ感じられるところがあるのは事実だ。彼ら偉大なアーティストたちの映像を見事に収めたこの映画は、近年まれに見る優れたロックドキュメンタリーとなっている。


CROSBY, STILLS, NASH & YOUNG, Looking Forward, October 26, 1999

 再びCSN&Yとして出したアルバム。ニールの曲はSilver & GoldのライブDVDでも歌われている。

 

 

Silver & Gold(April 25, 2000 ,Reprise)

 Broken Arrow以来四年ぶりとなるスタジオアルバムだけに、おちついたアコースティックサウンドにはみんな肩すかしを受けた。Looking Forwardのソロでの続編のようなアルバム。

 

 

Road Rock, Vol. 1: Friends & Relatives(November 21, 2000,Reprise)

これはライブで、クレイジー・ホースと一緒ではないです。92年にディランの30周年記念コンサートに出演したときに歌った「見張り塔からずっと」も収録されています。ギターソロがいいね。


Are You Passionate?(March 26, 2002,Vapor)

 バックにBooker T & the MGsを起用したアコースティックアルバム。9.11直後に作成されただけあって事件を意識した曲もある。

 


Neil Young & 'Crazy Horse', Greendale(2003, Reprise)
『グリーンデイル』Amazon.co.jp アソシエイト

 あんまりこのアルバムについては 語りたくないなあ……。なんと言うか……。きっとみなさん複雑な感情をおもちなのではないかと思います。
 架空のアメリカ田舎町に住む環境保護活動家の一家がある殺人事件をきっかけにアメリカの社会問題を凝縮したような苦難に巻き込まれ、最後には家族の絆を見いだすという、なんだかどこかで聞いたような安っぽいストーリーをコンセプトに作ったアルバム。同時期に『ドッグヴィル』をやっていて、お話し的にはそっちのほうが断然面白かったので、うーんどうかなあと思った記憶がある。
 ヤングの歌は力強くて、クレイジー・ホースの演奏もいいのだけど、そんなに思い出すような曲がないのが残念。でも何よりの問題は、このアルバムの曲をすべて日本でのライブでやったということなんです。二部構成になっていて、一部は『グリーンデイル』、二部は昔の曲というものでした。変なのは『グリーンデイル』は舞台の後ろがセットになっていて、そこでこの話に合わせた芝居をけっこうな人数でやっているということ。曲のなかの叫び声にあわせてその人物が叫んだりもする。とまあ、なんとも変なライブだったのでした。

Neil Young & 'Crazy Horse', Greendale [Second Edition], February 24, 2004

 『グリーンデイル』にはDVDがついていて、アルバムの曲をヤングがアコースティックバージョンで歌っているものが入っていた。これはどうも退屈なものでほとんど見ていなかったのだけど、この第二番ではそのDVDの内容がかわっているらしい。このアルバムのセッションやリハを収録したもので、クレイジー・ホースの面々も見られるということ。今から『グリーンデイル』を買う方はこちらがお勧め。

Greendale, May 18, 2004

 グリーンデイルをヤング自身が映画化したもの。セリフは歌詞なので、ミュージカル仕立てとも言える。ライブをごらんになった方にはどんなものか想像がつくのではないでしょうか。しかしこの時代にこういうものを作るってのは……。むかしは『トミー』とかいろいろとロックミュージカルみたいなのがたくさんあったけどね。ちなみに2004年に日本でも公開された。

 

 


Prairie Wind, September 27, 2005
『プレーリー・ウィンド』Amazon.co.jp アソシエイト

 日本版にはDVDも収録しているらしい。『ハーヴェスト』三部作の完結編ということになっているけど、その宣伝文句ってSilver & Goldのときも使われてなかったっけ?

 

 

60-70年代のアルバム

80年代のアルバム

戻る

アヴァン・ポップな音楽館