ポール・サイモン

Paul Simon

Amazon.co.jpに寄せられたレビューを読んでいると、面白いことに気がつく。Simon & Garfunkelのアルバムへのレビューは誰かが言っているようなことを書いているか、思い出話みたいなのを書いているようなもの、つまりおざなりなものが多いのに、サイモン個人のアルバムになると文章量もはっきり増え、アルバムへの強い思い入れが込められたものが多い。これは、アーティストとして幸福なことなのではないだろうか。サイモンはソロになってもちろんアルバムの売り上げは落ちたし、日本ではレコード会社の社長が懸念を表明するほど売れていないけれど、アーティストとしては十分に成功したと言えるのではないだろうか。

Paul Simon, Surprise, 2006

このアルバムには特別なものがある。何かBrian WilsonのSmileにさえ似たなにかがある。同時代をサイモンと生きてきたわけではないけれど、このアルバムを聴く15年くらいは前にサイモンの、とくにガーファンクルと一緒にやっていた時代のあの傑作アルバムたちを文字通り一音一音聞きとって育ってきた自分にとって、特別な。いや、それよりも、ソロのサイモンのサウンドとその雰囲気をこよなく愛しつつも、何か報われない思いを抱いてきた自分にとって、と言うべきだろうか。思い返してみれば、70年代の作品は素晴らしいが、どれも小粒で、ボリューム感に欠けていた。90年のThe Rhythm of the Saintsも満足できる作品では到底なかった。しかしあれがサイモンのここ二十年で一番のアルバムだったのだ。彼なりのアフリカンミュージックの取り込みはかなりいい線までいっていたものの、楽曲自体は中途半端すぎた。それがここにきてこれだ。サイモン&ガーファンクル以来、いや、彼のキャリアのなかで最高とも言ってよいアルバムが突然来たわけだ。60年代以来彼のファンだった人は、40年も待たされたことになる。もうほとんど忘れていた頃に、これが 40年分の成果です、と言って突然傑作を手渡されたようなものだ。そうか、彼はここに来ようとしていたのか。偉そうだけど、そうか、ようやくそれをつかんだのか、という感じ。
そういうわけで、これをSmileと比較するのも決して間違っていないと思う。しかし、長らくロックをやってきた人たちのここにきて傑作の連発ぶりはいったいどういうことなのだろうか。こんな幸せなことがあっていいのだろうか。WIndows Media.comにこのアルバムのレビューを書いている人は50代くらいだろうか。「Unlike such deservedly praised comeback albums from some of his peers -- such as Dylan's Love and Theft, the Rolling Stones' A Bigger Bang, Paul McCartney's Chaos and Creation in the Backyard -- Simon doesn't achieve his comeback by reconnecting with the sound and spirit of his classic work; he has achieved it by being as restless and ambitious as he was at his popular and creative peak, which makes Surprise all the more remarkable.

Simon & Garfunkel, Old Friends: Live on Stage, 2004

Simon & Garfunkel, In Concert, 2004

Simon & Garfunkel, Live From New York City, 1967, 2002

Paul Simon, You're the One, 2000

Paul Simon, Songs from The Capeman, 1997

Simon & Garfunkel, Early Simon & Garfunkel, 1993

Paul Simon, Concert in the Park, 1991

Paul Simon, The Rhythm of the Saints, 1990

Paul Simon, Graceland, 1986

Paul Simon, Hearts and Bones, 1983

Simon & Garfunkel, Concert in Central Park, 1982

Paul Simon, One-Trick Pony, 1980

Paul Simon, Still Crazy After All These Years, 1975

Paul Simon, There Goes Rhymin' Simon, 1973

 

 

 

 

Paul Simon, Paul Simon, 1972

 

 

 

 

Simon & Garfunkel, Bridge Over Troubled Water, 1970

非常に有名な名盤。でも35分しかないから短いけれど。やはり三人(アート+ポール+ロイ、しかしこのアルバムは実質的にはアート抜きで作られた)なので、『アビー・ロード』ほどのボリュームのものは作れなかったわけだろう。表題曲が有名だが、The BoxerとThe Only Living Boy in New Yorkの二曲が彼のキャリアのなかでも特に素晴らしい曲。あとの曲はもちろん悪くはないものの、ただのポップスに近くなっている。初めはかなり気に入って聴いていたものの、そのうちParsley, Sage, Rosemary and Thymeのほうを聞き直す回数が多くなっていったのをはっきり覚えているなあ。やはり音楽的には前作と前前作のほうが高く評価されることになるのだろう。それでももちろん標準以上にいいアルバムであるのは言うまでもないのだけれど。

 

Simon & Garfunkel, Bookends, 1968

A面の流れが恐ろしく完璧で美しい。コンセプト・アルバムとしてこれ以上ないほど優れた展開になっている。これだけの曲を生み出していたポール・サイモンはやはりピークにあったのだろう。曲は前作とは少し雰囲気が変わっていて、二人の歌声がオーバーダヴィングされているのではなく、よりシンプルなサウンドのものが多い。サイモンの書く詩も違ってきている。B面もコンセプト・アルバムとして作られていればもっといいアルバムになったはずだが、これでももちろん十分に素晴らしい。

 

Simon & Garfunkel, The Graduate, 1968

ダスティン・ホフマンの初主演作『卒業』のサウンドトラック。映画はサイモンとGrusinの音楽を使って、非常に印象深い仕上がりになっている。サウンドトラックというものが独立した音楽作品として注目されるようになったのは、確かこのアルバムがきっかけだった気がする。とはいえ、曲自体はほかのアルバムで聞けるものなので、ポール・サイモンファンにとっては重要なものではない。

 

 

Simon & Garfunkel, Parsley, Sage, Rosemary and Thyme, 1966

Simon & Garfunkelのサード。この世の中で最も繊細なアルバムの一つ。エンジニアのRoy Haleeの力が存分に発揮され、驚くほど緻密なサウンドが構成されている。当時としては長い三ヶ月を録音に費やし、ひたすらサウンドを練り上げて作っている。二人の歌声も、「スカボローフェアー」に代表されるように、多重録音によってこの世のものとは思えないようなハーモニーとなっている。おそらく、世界で最も複雑なハーモニーが使われているアルバムなのではないだろうか。ポール・サイモンの天才的なギターも際だっていて、アコースティック・ギターの演奏の最高峰レベルのものを聴くことができる。そして詩も、ボブ・ディランのそれを上回るほどの豊かなイメージと暗示に満ちたもので、文学作品レベルのものになっている。個人的には、これがSimon & Garfunkelにとってはもちろん、ポール個人としても最高の作品であり、1960年代におけるベストアルバムの一つに数えたい。と、思っていたら、WindowsMediaComには、"it is an achievement akin to the Beatles' Revolver or the Beach Boys' Pet Sounds album, and just as personal and pointed as either of those records at their respective bests."と書かれており、おおと思ってしまった。従来はこのアルバムはそれほど評論家には高く評価されていなかったようなのに、なんと今や『リボルバー』や『ペットサウンズ』に比較されるようになったのか。分からない人のために言っておくと、それはつまり、ロック史上最も優れたアルバムの一つであるということを意味するのです。
 それはともかく、このアルバムをそれほど特別なものにしているのは、個々の要素のレベルの異常な高さもさることながら、全体の統一された雰囲気によるのだと思う。コンセプト・アルバムとして完全に成功しており、パーソナルな預言者みたいな雰囲気が全体に満ちている。The 59th Street Bridge Song (Feelin' Groovy)The The Dangling ConversationFlowers Never Bend with the Rainfallへと到る流れなど、あまりにあまりに繊細で美しい。青春だけが生み出すことのできるものなのだろうな。

 

Simon & Garfunkel, Sounds of Silence, 1966

Simon & Garfunkelのセカンドアルバム。フォークロック調にアレンジされたSounds of Silenceのシングルヒットを受けて、急遽作られたアルバム。ポールの意図に反して、ロックの楽器が付け加えられ、アレンジも彼のものではない。その元の姿は今ではThe Paul Simon Songbookで聴くことができるので聞き比べるべきだろう。しかし、歌詞はどれも味わい深く、サウンドも、アメリカンフォークではなくブリティッシュフォークに向かっていることがはっきりと感じられる。不完全な出来であり、聞き応えあるというわけではないが、ちりちりと心に残るアルバムだ。

 

Paul Simon, The Paul Simon Songbook, 1965, 2004(on CD)

初めてのアルバむが売れなかった後、イギリスに戻り一人で録音した音源をもとに作られたもの。長らくCD化されなかったが、2004年にようやくCD化の日の目を見た。

 

 

 

Simon & Garfunkel, Wednesday Morning, 3 AM, 1964

Simon & Garfunkel名義の第一作。完全にアコースティックなアルバムで、「二人組のボブ・ディラン」というプロデュース。

 

 

 

 

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