そのほかいろいろ


Tom Waits, Bone Machine, 1992

 トム・ウェイツにしては異色作だが傑作。全体がノイジーで歪んだ音になっているが、こういう音作りをしているアルバムのなかでも傑作なんじゃないだろうか。アコースティックなトムが好きな人には受け入れられないかもしれないけれど、「I Don't Wanna Grow Up」など楽曲もよく、歌声も力強い。完全なトムのしわがれ声が素晴らしい。トム・ウェイツは本人がリリースを承諾していない『アーリー・イヤーズ』なんかも素晴らしい作品だったりするから不思議だ。
 

 

Randy Newman, Sail Away, 1972

 「Simon Smith and the Amazing Dancing Bear」「Dayton, Ohio 1903」など信じがたいほど美しい曲で綴られる名盤。この人はハリウッドの映画音楽をよく手がける、いわゆる「バーパンク・サウンド」の代表者のような存在。オーケストラも使ったりするそのサウンドはちょっとポール・サイモンっぽいがここではもっと内省的だ。歌詞は皮肉たっぷりだけど、曲はほんとうにどれも美しく味わい深い名盤です。そういやこの人、アリーマイラブ3にカメオ出演していたのには驚いたな。
 

Brian Wilson & Van Dyke Parks, Orange Crate Art , 1995

 ブライアン・ウィルソンの快復を祝って、盟友ヴァン・ダイクが彼の曲をウィルソンに歌わせたアルバム。名義が両者になっているところに彼らの友情が伺える。
 というわけで、『スマイル』ではなく、ヴァン・ダイクのバイーパンクサウンド作品となっている。というか、ほんとに古き良きバーパンクサウンドそのまんまで、60年代でもこれほど素直な作品はなかったというほど。どこか懐かしいけれど、ぜんぜん古くない暖かみのある曲ばかりの、珠玉の傑作になっている。もちろんウィルソンの歌声もすばらしい。
 95年にこのアルバムが発表されたときには音楽雑誌で大きく扱われ、その年のベストアルバムなんかに選ばれたりもしたのを見て、なんでこんなのが……という印象を抱いたことがあった。確かに時代にはぜんぜんかかわっていないアルバムで、95年という年を代表するなんかもまったくしない。これが70年代のアルバムだと聞かされれば信じてしまうかもしれない。しかしこれは真に人の心を打つ、古びることのない傑作であるという意味で、このアルバムを年間ベストアルバムに押すのは間違っていなかったのかもしれない。95年からはもう十年もたったけれど、このアルバムは30年もまえのことを歌っているという変なアルバムだ。個人的には「Movies Is Magic」の「life is tragic」と韻を踏むのが大好き。
 

Nick Drake, Five Leaves Left, 1969

 冷たく、陰気な世界を繰り広げているというのに、同時にとても美しいというこの不思議さ。とてもピュアな歌声と音楽がここにはある。ニック・ドレイクは28で夭折した伝説的なフォーク・シンガー。まあその歌声は一度きいたら忘れられるものではない。それにしても、こういう音楽を愛する人が未だにいるというのがこの世界の面白いところだ。暗い音楽が好きな人にはおすすめ。暗いだけではないんだけど、もちろん。
 

Nirvana, MTV Unplugged in New York, 1994

 ニルヴァーナが出しているスタジオアルバムはどれも傑作だけれども、どれか一枚というなら迷わずこれを押す。あのね、当時はミスター・ビッグとかがはやってたころなんだよね。そんな当時のポップなシーンに彼らの音にはほんとびっくりした……とか昔話はおいといて……。
 このアルバムはアンプラグドなだけに、カート・コヴァーンの叫びとも告白とも受け取れるようなシンプルな音作りになっていて、まるで『ジョンの魂』を思わせるかのようだ。ロックでここまで個人の内面が赤裸々に歌われることはあまりない。カートは自殺してしまったけれど、最後にこの必死の歌声を残した。その真摯さと切なさに私たちは心うたれる。
 

Sonic Youth, Daydream Nation, 1988

 心震えるほどのロックの名盤というのはそうそうあるものではないし、とくに80年代以降には少なくなっていると思うのだが、これはもうとびきりの傑作。一曲目の「Teen Age Riot」のエネルギーなんかはディランの「ライク・ア・ローンリング・ストーン」なんかにも絶対劣らない。これがインディーズ時代最後のアルバムということだが、プロになる後よりもむしろポップで、情熱的で、ドラマチックで大音量だ。最近のソニック・ユースは知的になっていてちょっとつまらないと思うけれど、これは若さとノイズに溢れた本物のロックンロールをてらいなく展開している。この時代を代表する大傑作なのは間違いない。
 

Television, Marquee Moon, 1977

 ニューヨーク・パンク、Televisionのデビューアルバム。これはツインギターによるギターアルバムで、そのメタリックなサウンドが素晴らしい。 彼らのギターサウンドはヴェツヴェットがしたようなブルーズギターの系統からまったず外れた無機的で乾いた、しかしとても知的なギターだ。これを真似しろと言っても無理という感じ。トム・ヴァーラインの非常に文学的な歌詞が作り上げる神話的な都市の世界もまた素晴らしい。
 今日では、このアルバムこそがギターサウンドの革命を起こしたアルバムだと言われている。80年代のポストパンクはこのアルバムなくしては考えられない、と。というわけで、ギターの新しい使い方を示したという点でこれはロック史上重要な位置を占めるに至った。ぼくはこのアルバムは好きで何度も聞いていたけれど、そんなふうにして評価されているのは嬉しい限りだ。
 

The Beatles, Revolver, 1966

 なんで今頃「ビートルズ」やねん! ネタがつきたか? とか言わないでください。まあ、その通りなんだけども……。いや、でも彼らについてはいろいろと言われているしもうほんと十分なんだけど、このアルバムについてだけはここで取りあげておきたい。
 彼らの最高傑作は『アビー・ロード』だと思うけれど、それに勝るとも劣らないのがこれ。革新的という意味では間違いなくこれが一番。私はなんであんなに『サージェント・ペパーズ』が名盤扱いされるかわけがわかりません。楽曲としてはこちらに入っている物の方が完全に上。「タックスマン」の次が「エリナー・リグビー」だよあんた? 信じられますかこれ。
 真面目な私はビートルズのアルバムも順番に買っていって聴いていったものだったのよ。『ラバーソウル』はそれまで聞いてきたビートルズのアルバムの中では一番よくて(一番はじめに『アビーロード』に手を出していたのは秘密)、そりゃもう感動したものでしたよ。一音ずつ丁寧にききましたとも。しかしあのストレートにポップなアルバムの次にこのぶっ飛んだ万華鏡アルバム。これ、今聞いても十分革新的なんですね。すごく斬新です。よくビートルズといえば耳になじんだヒット曲ばかり作ったバンドだと思っている人がいるけれど、ここのビートルズは全然違う。もう完全に異世界の人です。宇宙人です。
 音もどうやって出しているのか想像もつかない音ばっかりだし、「And Your Bird Can Sing」なんかどこの世界の音楽なのかぜんぜん分からない国籍不明さ。歪みがかけられたヴォーカル。そりゃあもう興奮しますた。しかしこのアルバム、前半に有名な曲が多いけれど(「Here, There and Everywhere」は高校の音楽の教科書にのっていて初めて知ったよ)、後半のドトーのような流れがまたすごいんだよね。「For No One」に「Doctor Robert」、「I Want to Tell You」「Got to Get You into My Life」のポールの素晴らしいシャウト。息をつかせぬメドレーのようになっていて、『アビーロード』の美しい後半のメドレーにも匹敵するでわないか! 極めつけは「Tomorrow Never Knows」。なんですかこの曲は。もうね、アホかと。才能使いすぎ、際限なさ過ぎです。しかもこれが1966年。当時世界で一番ぶっとんだ音を作り上げていたバンドが彼らだったのはマチガイいない。
 んあ、でも最近は批評的な評価も『サージェント』よりこっちの上の方になってきているのか。ま、誰が考えてもそうなるだろうな。でもやっぱりあんまり一般にはそれほど聞かれていないアルバムなのには変わりがないと思います。テレビとかでビートルズ特集とかあるたび苦々しく思っているファンは私だけではないはずだ。「Let it be」ばっかりかけるのはやめろっつうの。ぜえぜえ。ま、とにかく誰でも知っているビートルズなんだから、みんな教養としてこれくらいは聞いておいてよね。今でもポップだす。
 

The Rolling Stones, Beggars Banquet, 1968

 ストーンズは命かけるほどは好きなバンドじゃないのね。彼らの『Exile On Main St.』以降のアルバムはマンネリで退屈だと思う。しかしこのアルバムは彼らの作品の中では特殊な、そして飛び抜けた傑作だ。まだブライアン・ジョーンズが参加して変な音を出しているせいなのか、のちのわかりやすい音と違って混沌とした興味深いサウンドになっている。
 ブルースとロックをベースにしたとても土臭いサウンドで、リズムはどこかアフリカっぽいところもある。冒頭の「Sympathy for the Dvil」はゴダールがその製作過程を映画にしている(『ワン・プラス・ワン』)けれど、一曲ができあがるまでどれほど試行錯誤があるものかよく分かる。実際、このアルバムはじっくりと時間をかけて練り上げられて作られたものなのだろう。今聞いても、ブルースロックのマスターピースとして永遠の輝きを放っている。
 

Chara, Junior Sweet, 1997

 Charaの曲は単に甘くてスウィーティーな「女の子」ソングという域を越えて、同時代の見事なロック音楽となっている。ギターはグランジのように歪んだ音をだし、「勝手にきた」はトラヴェリング・ウェルベリーズの曲のようにも聞こえる。ジェームズ・ボンドのテーマソングを思い出させる「どこに行ったんだろう?あのバカは」はファンキーなドラムズが楽しい。参加しているミュージシャンたちの力量も大きいだろうが、やはり彼女の独特なヴォーカルがたまらないのである。このアルバムには退屈な曲もあるので、Juniorがつかない『Sweet』のほうがいいかもしれないし、ベストアルバムもいいかもしれない。ま、そのへんは適当に。しかしこの人に関しては、浅野忠信とくっつけて羨ましいなと思うのであって、Charaとつっけれた浅野忠信も羨ましいかもしれないとそのあとで思うのはナゼだろうか。どーでもいいか。

Brian Wilson, SMiLE, 2004

Smile。これが今世界に実在しているということにどれほどの人がどれくらい感動しているのか。伝説が現実になるということ、まるで魔法の国のお話しのよう。まず恐れ戦きつつこのアルバムに近づく人も多いはずだが、驚くべきことに、このアルバムは先入観をすぐさま取り除いてくれる。私たちはすでにOrange Crate Artを聴いていて、これがそのサウンドに近いものがあるからだろうか。ヴァン・ダイクの協力も大きいみたいだし、それもあるだろう。しかし本当は、これが非常に親しみやすいアルバムだからだろう。包み込むようなシンフォニーに、暖かいコーラス。雰囲気は60年代だが、サウンドは洗練され尽くしている。これは年寄りが思い出に浸りながら慰みに作ったものなんかではない。聴けば聴くほど、そのすばらしさが分かってくる。そう、まるでPet Soundsのように。
でも私は本当のことを言うと、Pet Soundsにはそれほど親しめなかった。なにかどこかせっぱ詰まったような雰囲気が漂っていて、息苦しかったからだろうか。ところがSmileは、落ち着いてのびのびとしていていて、とても心地よい。ビーチボーイズよりかはバーパンクなんだからそれも当然か。どうやら、このアルバムの作成中にようやくSmileは完成したわけらしいから(まあ当たり前のようにも聞こえる話だけど)、60年代のものとは別物だとは言える。しかしそれでも、Brianが当時目指していたものであるのは確かなわけだ。Pet Soundsについてもよく時代の先端だったとかなんとか言われたりするが、Brian Wilsonの作品をそんなことで評価するのは全く的外れで、彼は自分の作りたいものに忠実だっただけだろう。40年の時を超えてようやく完成されたこれを聴くと、そのことがよく分かるし、それが分からない人が聴いてもしょうがない。優れた音楽は時代を超える。そして彼はそれを完成させた。

Eric Dolphy, Out to Lunch!, 1964

 なぜかこのアルバム、ジャズの名盤選とかで紹介されないこともけっこう多い。個人的にも、ジャズ好きの人と話をしていてこれが話題になったこともなぜかあまりないし、紹介されたこともない。でも、これは空前絶後の作品だ。はじめはヴァイブラフォンの響きがけっこう好きで聞いていたのだが、だんだんその複雑なリズムに魅せられていった。さらに、これはどうやらコンセプト・アルバムらしくて、なるほど、統一感がある。ドルフィーもいろんな楽器を使っていて、とくに三曲目の炸裂するフルートが超絶。ジャズっていうのは聞く人を悶絶させるような感じがあるけれど、これはほんとに悶絶死させるぐらいの勢いがある。昔のジャズっていうのは叙情的で、いまの時代の雰囲気にはあんまり合わないような気もするけれど、このアルバムはまあフリー・ジャズに入り込んでいるからかもしれないけれど、とても斬新。あんまりこれを紹介しているとほかのジャズも気になってくるから深入りはしないけれど、死ぬまでに一度は聞いてほしいアルバムですな。

戻る

ホーム