『罌粟と記憶』 Mohn und Gedächtnis (1952)


「死のフーガ」 
Todesfuge

夜明けの黒いミルクぼくらはそれを晩にのむ
ぼくらはそれを昼にのむ朝にのむ夜にのむ
ぼくらはのむそしてのむ
ぼくらは宙に墓をほるそこなら寝るのにせまくない
ひとりの男が家にすむその男は蛇どもとたわむれるその男は書く
その男は書く暗くなるとドイツにあててきみの金髪の髪マルガレーテ
かれはそう書くそして家のまえに出るすると星がきらめいているかれは口笛を吹き犬どもをよびよせる
かれは口笛を吹きユダヤ人たちをそとへよびだす地面に墓をほらせる
かれはぼくらに命じる奏でろさあダンスの曲だ

夜明けの黒いミルクぼくらはそれを夜にのむ
ぼくらはおまえを朝にのむ昼にのむぼくらはおまえを晩にのむ
ぼくらはのむそしてのむ
ひとりの男が家にすむそして蛇どもとたわむれるその男は書く
その男は書く暗くなるとドイツにあててきみの金色の髪マルガレーテ
きみの灰色の髪ズラミートぼくらは宙に墓をほるそこなら寝るのにせまくない
かれは叫ぶもっとふかく土をほれこっちのやつらそっちのやつら歌え奏でろ
かれはベルトの金具に手をのばすふりまわすかれの眼は青い
もっとふかくシャベルをいれろこっちのやつらそっちのやつら奏でろどんどんダンスの曲だ

夜明けの黒いミルクぼくらはおまえを夜にのむ
ぼくらはおまえを昼にのむ朝にのむぼくらはおまえを晩にのむ
ぼくらはのむそしてのむ
ひとりの男が家にすむ金色の髪マルガレーテ
きみの灰色の髪ズラミートかれは蛇どもとたわむれる

かれは叫ぶもっと甘美に死を奏でろ死はドイツから来た名手
かれは叫ぶもっと暗くヴァイオリンをならせそうすればおまえらは煙となって宙へたちのぼる
そうすればおまえらは雲のなかに墓をもてるそこなら寝るのにせまくない

夜明けの黒いミルクぼくらはおまえを夜にのむ
ぼくらはおまえを昼にのむ死はドイツから来た名手
ぼくらはおまえを晩にのむ朝にのむぼくらはのむそしてのむ
死はドイツから来た名手かれの目は青い
かれは鉛の弾できみを撃つかれはねらいたがわずきみを撃つ
ひとりの男が家にすむきみの金色の髪マルガレーテ
かれは犬どもをぼくらにけしかけるかれはぼくらに宙の墓を贈る
かれは蛇どもとたわむれるそして夢想にふける死はドイツから来た名手

きみの金色の髪マルガレーテ
きみの灰色の髪ズラミート

飯吉光夫訳

戻る