『二十億光年の孤独』(1952東京創元社)
谷川俊太郎(1931.12-)
かなしみ
あの青い空の波の音が聞こえるあたりに
何かとんでもないおとし物を
僕はしてきてしまつたらしい
透明な過去の駅で
遺失物係の前に立つたら
僕は余計に悲しくなつてしまつた
博物館
石斧など
ガラスのむこうにひつそりして
星座は何度も廻り
たくさんのわれわれは消滅し
たくさんのわれわれは発生し
そして
彗星が何度かぶつかりそうになり
たくさんのお皿などが割られ
南極の上をエスキモー犬が歩き
大きな墳墓は東西で造られ
詩集が何回も捧げられ
最近では
原子をぶつこわしたり
大統領のお嬢さんが歌をうたつたり
そんないろいろのことが
あれからあつた
石斧など
ガラスのむこうに馬鹿にひつそりとして