白石かずこ (1931〜)

 

モダン・ジャズを演奏するように詩を書くヴァンクーヴァー生まれの白石かずこが、「男根」などの詩をふくむ『今晩は荒模様』を発表したのは六十年代。「男根」「子宮」「セックス」「メイク・ラブ」などの言葉を使っているこの詩集に対して、当時の週刊誌は”男根をうたう詩人”として白石かずこを大きくとりあげ、”女性セックス詩人”というレッテルを貼ったらしい。(『現代詩の鑑賞101』)

<いや、現代詩人のなかにもひそかに顔をしかめながら、俗物的根性を示す者がいたのである。そんなとき、白石かずこは俗流ジャーナリズムの場で、わざと一見”パアふう”にふるまうこともあった。そうまでしてただ独りで俗流どもと闘い、あるいは無視したのだった>

というように、「異端児」だった白石かずこだが、彼女自身は当時こう語っている。

この頃は更にヘンな人まで現れて、詩とはセクスを唄うものであると思い、白石かずことは、セクスをしては、その結果を詩で唄うのだと、それゆえにすぐれた詩ができるとホンキで思う人なども、詩人の間にまで現れて、ガヤガヤと、そのセクスの相手は着色人種であるとか、それが黒色をオビテルことはナゲカワシイとか、いっこうに文学とも人間の魂とも関係のないチマタの叫びが、長屋のカミさんのような声で語られるようになった。

だが白石かずこはとても無垢な詩人であり、母性的かつコズミックな詩を書く。

卵のふる町

青いレタスの淵で休んでると
卵がふってくる
安いの 高いの 固い玉子から ゆで卵まで
赤ん坊もふってくる
少年もふってくる
鼠も英雄も猿も キリギリスまで
町の教会の上や遊園地にふってきた
わたしは両手で受けていたのに
悲しみみたいにさらさらと抜けゆき
こっけいなシルクハットが
高層建築の頭を劇的にした
植物の冷たい血管に卵はふってくる
何のために?
<わたしは知らない 知らない 知らない>
これはこの街の新聞の社説です

(処女詩集『卵のふる町』'51より)

はじめ白石かずこは、「VOU」に参加して、モダニズムの影響をうけた短いしゃれた上のような詩を書いていた。しかし、九年ほどの沈黙の後、息の長い詩を書き始める。彼女が自分の詩の理想を、コルトレーンなどのモダン・ジャズの中に見つけた後のことである。

鳥(bird)

                 (『今晩は荒模様』'65より)

砂族の系譜(抜粋)

(『砂族』'82より)