モダン・ジャズを演奏するように詩を書くヴァンクーヴァー生まれの白石かずこが、「男根」などの詩をふくむ『今晩は荒模様』を発表したのは六十年代。「男根」「子宮」「セックス」「メイク・ラブ」などの言葉を使っているこの詩集に対して、当時の週刊誌は”男根をうたう詩人”として白石かずこを大きくとりあげ、”女性セックス詩人”というレッテルを貼ったらしい。(『現代詩の鑑賞101』)
<いや、現代詩人のなかにもひそかに顔をしかめながら、俗物的根性を示す者がいたのである。そんなとき、白石かずこは俗流ジャーナリズムの場で、わざと一見”パアふう”にふるまうこともあった。そうまでしてただ独りで俗流どもと闘い、あるいは無視したのだった>
というように、「異端児」だった白石かずこだが、彼女自身は当時こう語っている。
この頃は更にヘンな人まで現れて、詩とはセクスを唄うものであると思い、白石かずことは、セクスをしては、その結果を詩で唄うのだと、それゆえにすぐれた詩ができるとホンキで思う人なども、詩人の間にまで現れて、ガヤガヤと、そのセクスの相手は着色人種であるとか、それが黒色をオビテルことはナゲカワシイとか、いっこうに文学とも人間の魂とも関係のないチマタの叫びが、長屋のカミさんのような声で語られるようになった。
だが白石かずこはとても無垢な詩人であり、母性的かつコズミックな詩を書く。