ロード・オブ・ザ・リングス
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SEE版だと全編なんと672分(11時間12分)に及ぶ映画版。約五万語にもなる原作。まさに世紀の作品といえましょう。

ピーター・ジャクソン監督『ロード・オブ・ザ・リングス 旅の仲間(原作:トールキン、脚本:フィリッパ・ボウエン、製作 ・脚本:ピーター・ジャクソン、フラン・ウォルシュ、スティーブン・シンクレア、製作:バリー・M・オズボーン、ティム・サンダース、共同製作:リック・ポーラス、ジェイミー・セルカーク、製作総指揮:マーク・オーデスキー、ロバート・シェイ&マイケル・リン、ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン、美術:グラント・メイジャー、撮影:アンドリュー・レズニー、A.C.S.、衣装:ナイラ・ディクソン、リチャード・テイラー、編集:ジョン・ギルバートコンセプチュアル・アーティスト:アラン・リー、ジョン・ハウ、ヘア・メイクアップ・アーティスト:ピーター・オーエン、音楽:ハワード・ショア歌:エンヤ)、アメリカ映画、ニューラインシネマ、シネスコ、208分(SEE版)、2001-2002

 三部作の第一作目。正直、これが映画史上前代未聞の三部同時制作で、いまやすでに全部取り終えていて(実際には二作目でも三作目でも部分的な取り直しやCGなどの修正はたくさんあったらしいが)もうすぐ公開されるって聞いたとき、「ふ〜ん」ぐらいにしか思わなかったのね。だって一時期原作にすごくはまったことのある者としては、あの壮大でかつ微妙な物語がアメリカあたりで映画として再現できるとは心底思わないもの。でもそれはにゅーじーらんどだった。あるいはミニチュアの世界だった。あるいは細心の注意が行き届いたCGだった。あるいは美しいオーストラリアの俳優だった。このファンタジーが制作できてしまう映画の世界こそまさに現代のファンタジーそのものなのではないか、と思わずにはいられないほどの驚愕のできばえ。重症の指輪ファンにとってもこの映画はショックだったわけです。


 今までのファンタジー映画と比べてみてください。『ネヴァーエンディング・ストーリー』にしても映像こそ美しかったものの、お話としては単純な子供向けのものになっているし、最近の『ハリー・ポッター』も映像はすごいけどもともと原作がそれほどのものではない。ところがこの三部作ではその深みある物語をできるだけ表現しようと努力しています。そこがまず拍手喝采。世界観の表し方も凝っていて、舞台となる土地はロケ(つってもホビット荘は平原に実際に作ったのだけど)か驚くほど精巧なミニチュアで作り上げていて、うっとりしちゃう。CGを多用したなんかぎこちない映像とはまるで違うんです! 一作目ではホビット荘や裂け谷(上の画像)、ロスロリエン(下の画像)、モリア、アイゼンガルドなど(ってほぼ全部か)が見所ですね。ホビットはちゃんと背が低くて裸の足はでっかいし、エルフは背が高くて耳がとんがっている。モンスターもスプラッター並に怖くできていて、悪の使いは迫力満点。そして指輪ファンもびっくりなのは、登場人物が流ちょうにエルフ語をしゃべること! これはマジですんごい練習したらしいからさらにびっくり。だって原作にないセリフでさえエルフ語でしゃべってるのよ! これだけでもどんだけ制作者が愛情と労力を惜しまずに映画を作っているのかが分かります(原作のトールキンはオックスフォードの言語学者で、もともと架空の言語を詳細に作っていくうちに物語ができあがっていったのだった。

 語り口も非常にうまくって、原作のストーリーを見事に凝縮して語っている(省略されているところもそりゃ多いですが、小説では書けきれていないところをうまく映像化してくれったって気がするのね。モリアの坑道とか。下の画像参照)、、、が、これはまだ一作目であるためにいささか分かりづらいところがあるのも事実。過去の話なんかも普通の人にはすんなりと理解はできないはず。はずなんだけど、ちゃんと理解した人が見ていても矛盾のない納得できる映像と話を語ってはいる。そこが感心。2時間40分もあるけれども、ワンシーンにできるだけつめこもうとしているので、中だるみもないし普通はみすごすようなシーンにも意味があったりする。んでそこをじっくり愉しみたい人にはDVDのスペシャル・エクステンデットエデション! これは劇場未公開のシーンが三十分ほど追加されている本編を収録したもの。正直これを見ちゃうと、劇場版がただのダイジェスト版にすぎなかったのではないかと思っちゃう。だってほぼどのシーンにも細かい追加があってエピソードがより細かく語られているし、本編ではばっさり省かれたシーンなんかもあったりするんだから、印象が全然違う。劇場版だと駆け足のなんだか美しいファンタジーアクション映画にしか思えない人でも、このバージョンを見れば深い世界観と心理的な物語のあるお話だってことぐらいは否応なくわかるわけ。でもまあ、この映画は劇場でしか100パーセント味わえないのも当然の事実だけどね。音響も写りもよくないテレビなんかで見ちゃってもちっこいのがわらわらしているだけで、映像の細部の美しさも馬が駆けるシーンの躍動感も伝わんないもの。そういうわけで、これを劇場で見ていないのにあんまり楽しめなかったと言う方は、タイムマシーンを発明して2002年に戻って東劇あたりで見てください。タイムマシーンを発明するだけの労力に見合った作品だと思います。

 そりゃあハリウッド映画なのでいわゆる「芸術映画」とは言えないですよ、これは。でもね、こんだけのセット(ミニチュアだけど)の美しさやもろもろの美術、高い塔からでんぐりがえったり縦横無尽に飛び回るカメラなんか、これはやはり一種の芸術だと言えると思うんです。現実や芸術そのものへの問いかけこそが芸術だって言う考え方は現代に特徴的で、映画の世界でもそういう考えはゴダール以来すんごい強いけれども、単純に美しく、現実では見ることの出来ない映像を美し出すのも映画の持つ本来的な芸術性だと思うのよね。それを追求することってやはり素晴らしいことだし、芸術的なことでもある。そしてこの映画はそれをかつてない次元で実現した映画なわけです、文句なく。そういう意味でこれは映画史に残したいと私は思いますです。

 おっとまだ言いたいことはあるぞ。俳優陣です。イアン・マッケランは演技過剰に見えなくもないがまあよくやっているかな。イライジャ・ウッド、ヴィゴ・モーテンセン、オーランド・ブルームはこの映画でみんなブレイクした。っていうかそんだけこの映画がエポックメイキングだったってことだけど、オーランドはいつまでもつかな? イライジャ・ウッドの神秘的な瞳(色はCG)はほんと素晴らしいし、ヴィゴのちょっとたよんなさそうな「はせお」ぶりも好感がもてる。ガラドリエル役のケイト・ブランシェットはほんとのエルフみたいでびっくりだし、リブ・タイラーも勇敢でまあよろしい(エンヤの歌もよい。というか、エンディング曲はどんどんよくなっていくので必聴です)。
 んが、この一作目の最重要人物はガンダルフでも当然ビルボでもなく、ボロミアなんですね〜。彼はモルドールの近くに住んでいて、衰退したゴンドールがその肩にかかっているだけに人間としてすんごく苦悩している。そこがあの場面で弱さとして出るんだけど、アラゴルンはそういう彼の重荷を引き受けることを最期に約束し、その後の彼の運命につながるわけだし、フロドは彼を見て一人でいくことを決意するわけよね(オークが襲ってきたからではない、念のため)。このままではみんな指輪の虜になってしまうかもって思ってね(ビルボも見ているわけだしフロドは)。そういう細かい描写は原作にまけるとも劣らないですこの映画。まあ、ハリウッド映画だからって馬鹿にしないで注意深く見ている人にしか読み取れないですが、きっと。

 ちなみに、one ringはほかのすべての指輪を支配する(rule them all)ってプロローグでは言っているのに、「全世界を支配する」って訳ではなっていて、ちょっと理解を妨げています。サウロンはドワーフと人間の指輪制作には係わりましたが、エルフの指輪制作には係わっていない。そこでone ringを作って全部を支配しようとした。ただ、エルフの指輪もone ringも基本的にそれほど違う作り方をしたわけではないので、この世のすべての力が係わっているだろうone ringが滅んだら、未だ汚されていない三つの指輪も力を失ってしまうだろう。そうなるとエルフはミドル・アースではすむことが出来ずに遠い永遠の国に旅立たねばならない。つまり、エルロンドもガラドリエルもこの世界の行く末がどうなろうともハッピーではないわけ。そこが衰退しつつあるエルフの運命の悲しさで、アルウェンの愛が美しいのもそういう時代だからこそなんですね〜。あと、ゴンドールはむかし王がいましたが、イシルドゥア亡きあと王の血筋は衰退し、今は執政(ボロミアのお父さん)がlordとなっている。ボロミアが自分とアラゴルンのことを差してLords of Gondorって言っているのは王と執政ということですね。ガンダルフ(サルマンも)は一種の神的存在で、バルログも同じ格の存在で、両者は上古の時代からの宿敵同士です。劇場版の戸田奈津子さんの字幕(この人は脚本に対するリスペクトがなく、映画を見て自分が理解した物語を伝えればそれでいいやと思っているようだ。結果的に物語を矮小化してしまった。これは、映画字幕は普通の翻訳とは違うとかいう問題ではもはやなく、字幕が目指すべき方向性そのものを取り違えた致命的なミスだ。どんな翻訳も翻訳者の解釈だという言葉は、原文を正確に訳そうとする努力ぬきにしてはただの戯れ言にすぎん。ここまで書くのは、ほかの字幕翻訳でも似たようなことが起こっているに違いないからだ)は誤訳だらけだったようで大騒ぎになって、DVDなんかでは少し修正されているけれど、あくまで修正であるので、間違いは多く残っています(正直、これだけ丁寧に作り込まれている映画なら、字幕も専門家がはじめから丁寧に訳し直すべきだと思いますが……)。でもまあ、細かいところが理解できないってのは字幕のせいだけでもないので、原作を読んでください。原作を読んでも細かいところが分かんない人は「終わらざりし物語」など、ほんとに終わりそうにないラインアップが続々でてくると思いますので……。むかし原作を読んだ人も豪華本(最近は普通の版の挿絵でもそうなんだけどね)のアラン・リー(映画にはコンセプチュアル・アーティストとして参加)の挿絵で読み直したりしちゃったりしつつ、映画と見比べちゃったりしちゃうことでしょう。とはいえこれはまだまだ一作目にすぎず(これが一番普通のアクション&冒険映画っぽいんだよね)、このシリーズの本領は二作目以降で発揮されるのでした……。長文すんませんでした。thankyu

ピーター・ジャクソン監督『ロード・オブ・ザ・リングス 二つの塔』(製作=ピーター・ジャクソン、バリー・M・オズボーン、フランシス・ウォルシュ、脚本 =ピーター・ジャクソン、フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボーエンズ、スティーブン・シンクレア、原作=J・R・R・トールキン、撮影=アンドリュー・レズニー、美術 =グラント・メイジャー、音楽=ハワード・ショア、 歌=エミリアナ・トリーニ、衣装=ナイラ・ディクソン、リチャード・テイラー、特撮=ジム・ライジェル)アメリカ映画、ニューライン・シネマ、シネスコ、214分(SEE版)、2002-2003

 『指輪物語』は、ほんとひたすら悲しい話で、思い出すだけで泣けるほどなんだよね。ほら、この映画でもサムが自分たちの冒険のことをこう言うじゃない、「こんな話、誰も好きにならないだろうな。こんなに破壊されて、人が死ぬ悲しい話なんて」とかなんとか。原作の第一部では話し好きの詩ずきのホビットやエルフやガンダルフたちがことあるごとに自分たちの冒険を歌とかにしようとするんだけど、だんだん話が進むにつれ、明るいサムでさえ、はじめは「フロドの旦那はホビットで一番有名なホビットになるでしょうね。勇者フロド!」とか軽口を叩いていたのに、ほんとに情況が悲惨になるにつれて、そんな軽口さえ言えなくなって、ついにはこの冒険が、詩や歌で華々しく語られるようなものではなく、ただただ陰気で、憂鬱なものだということに気がつくのです。でも、それこそが世界で最も有名なファンタジーそのものなんだよねえ。そう、これはほんとに悲しく、暗い話なんですよ。
 正直第一部は、いかにもハリウッド大作なノリな感じで、ひたすらアクションシーン中心で、はらはらどきどきジェットコースターだったんだけど(原作第一部の持つ「中つ国」の歴史探索冒険のおイギリスな雰囲気は全然ない)、第二部のこの映画は、そう、あのCGのギムリ(ゴクリ)君の登場で一気に深い映画になったんです。原作も、第二部から質が違っていたのかもしれないけどね(なんせ大昔に読んだので各部ごとの雰囲気の違いまで覚えてない)。フロドはギムリに自分の将来を見て、なんともいえん複雑な親しみを感じる。サムはそんなフロドとギムリを嫌う。フロドによってギムリの昔の人格(いい奴)、スメアゴルがよみがえる。ギムリが人間に捉えられたとき、フロドは自分の醜い姿をさらすようで恥ずかしくて、彼に冷たい態度をとってしまう。サムはそんなフロドを見て心を痛め、ギムリをいたわりはじめる。そんなかな〜り微妙な三者の心情が、ほんとに上手く表現されていて、かなりオドロキです。ほんっとに原作に忠実、というか、よく原作を解釈して、消化していますよ、俳優たちも。
 そうそう、それがほんとにこの映画のいいところだと思います。それぞれのキャラクターがすごいはっきり出ていて、ほんと個性的。個性的なのはそれぞれの勢力もそうで、たとえばエントたちはほんと変だよね。エルフなんかも、別に人間なんかと組んで戦わなきゃいけないわけはないのに、アルェン姫の決断がもとでローハンに駆けつけることになる(このへんの映画独自の解釈は、原作を理解する上でも秀逸だと思われる)。つまり、みんな一致団結してサウロンと戦おうってわけじゃなくて、まあたまたま、というか、それぞれがそれぞれの理由を持って、それぞれの仕方でこの大きな戦いに参加してるのってのがほんとすごいリアル。これは、子供のときすごいイライラしていた部分なんだけどなー。いや、今でもエントたちにはやっぱりイライラするけどね。
 まあそんなわけで、この映画は、原作を読んでいるファンにも、異常なまでのスケールとクオリティでそれを映像化したってだけにとどまらずに、原作を読む新しい仕方まで提供してくれるという、ほんとかゆいところまで気がきいてるんだよなあ。いやはや。実際、『はてしない物語』の映画版なんかとは比べものになりませんがな。ギムリ君がひたすらコメディ役になっていたのは、ちとかわいそうだったけど、まあほんと重い話なので、ああいう息抜きキャラにしちゃって正解だったのではないでしょうか。そのぶん、今回レゴラスが目立たなくなっちゃったけど。
 戦闘シーンのすばらしさ、リアルさについては、みんながどれだけ語っていようともやはり絶賛すべきだと思うけど、でもやっぱりこの回はサム君の役どころの重要さが際だつよね。「あなたは見事なqualityをお見せになりました」というところなんか、すげー、サム君この冒険ですごっく成長しつつあるよーって感じで、それに対するファラミアの「庭師を大切にするホビット荘はきっと素晴らしいところに違いない」っていうセリフも控えめだけど大きな賛辞でいいよね。セリフと言えば、アルウェンがアラゴルンにエレスサールを渡すところ、これはあなたが亡くなっあと三千年もこの地で死を待つ用意があるぐらい私はあなたを愛していますっていうメッセージなんだけど、ここもすんごい控えめなセリフしか使っていないのが、グッっときましたね。いたくいいと思います。そう、どんな大作でもどんに高度なCGやAIを使っていても、やっぱり感動するところ(の基本)は役者の演技に脚本なんだよね、この映画はそれが非常に素晴らしい。
 さて、「私にはこの仕事は無理だ」なんて弱音をとうとう吐いちゃったフロド君、それにサム君とギムリ(とスメアゴル)君の陰気な旅路はどうなるんでしょうか。ここからひたすらサムがフロドを支えて、励まし、むち打ち、叱咤激励する耐え難い道のりが本当に始まるんだけど、そうそう、このオハナシ、泣けるのはラストだけじゃなくって、この道のりそのものなんだよねえ。いや、最後どういう決着がつくのか知っているからこそ(そう、あのあまりに衝撃的で悲惨な)この冒険がほんとに涙なくしてはみられないのだろうけれど、原作ではいささか陰気くさすて息苦しいこのエピソードを、映画はよく作っていると思います、ほんとに。よく見るとゴクリ(ギムリでした)面白いやつだし。というわけで、ぜひ第三部も見てください。そしてこれを軽い空想のおとぎ話の、少年わくわくの、ハリウッド超大作の、お気楽なお話だと思っているアナタ、ぜひとも衝撃のラストにふれて、哀れなボロミアみたいに「自分が間違っていた」と言いながら映画館の壁に頭を二百回ぐらい打ち付けてくださいな。原作は人の心の弱さをとことんまで描き尽くした作品だと思うけど、映画もいい線いっていますよ、マジで。あ、そうそう、ファラミアのエピソードはDVD などの「スペシャルエクステンデット・バージョン版」でなら見ることができますよ。
 ちなみに、原題をカナタナでちゃんと表記すれば、リングスと複数形になります。単数形だと意味わかんないジャン。いくつもの種類の指輪を支配する王(とその指輪も?)っていう意味なんだから。間違った日本語英語をひろめる配給はゆるすまじ。

ピーター・ジャクソン監督『ロード・オブ・ザ・リングス王の帰還 』(製作=ピーター・ジャクソン、バリー・M・オズボーン 、フランシス・ウォルシュ、脚本=ピーター・ジャクソン、フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボーエンズ、スティーブン・シンクレア、原作=J・R・R・トールキン、撮影=アンドリュー・レズニー、美術=グラント・メイジャー、音楽=ハワード・ショア、歌 =アニー・レノックス、衣装=ナイラ・ディクソン、リチャード・テイラー、特撮=ジム・ライジェル)アメリカ映画,ニューライン・シネマ、シネスコ 、250分(SEE版)、2003-2004

 四時間十分にわたるSEE版の第三部。原作でもそうなんだけど、全編これクライマックスとでもいうべき盛り上がり方で、覚悟してみなければ体と心がついていかないとんでもない映画ということでほかに類がないのは間違いない。やはり今までの二作を見ておかないと、感情的に盛り上がれないので注意。さらに小さいお子さんと大きなスクリーンで見るのも異様にお子さんが怖がるので注意。劇場で子供がけっこうずっと「怖い怖い」っていってるのを聞きながら私は見ましたが……。っていうかこれ大人でも十分怖いですよ、もとホラー映画の監督さん。うわーんこわいよまま〜んって感じ。うう……原作小説では「恐怖」ということに関してはあまり感じなかったような気がするんだけど、ここまで映像で表現されると、ほんとにその場にいるような恐怖を感じます。これはやはりすごいです。原作読まないで見た方がきっともっと怖いんだろうな。
 製作に七年……SEE版の作成なども合わせると十年かかって作られた作品を、こちらも四年くらいかけて全部みることができたわけなんですが、まあなんつーか、率直な感想として、ここまでするかってな感じですね。総製作費340億円、撮影日数15ヶ月、スタッフ2000人、キャスト・エキストラ26000人……。映画ってものにここまで資源や人間や時間やお金をかけて作るものなのかと。……ここまでの大作って映画史上例がないでしょう? エジプトのピラミッド(四千人でゆっくり作ったらしい)とか、そういう人類史上の記念碑的な作品がこれに比較できるのではないかとまで思うわけですよ……。だって、人はピラミッドに関して、すごいなあと驚嘆すると同時に、そこに費やされた労働力のことをも同時に思うでしょ? そういう反応がこの映画に関しても自然なものなんです。この映画が資本主義の恩恵によって作成されたっていうことも、当然この映画の価値をおとしめるものではないのだから(エジプトのピラミッドが農閑期に農民の手によって造られていようとも、奴隷によってであろうともどちらでもその見た目のすごさは変わらないように)、これはやはり現代における人類の記念碑的な業績だと思います。当時の知識と技術が結集された作品という意味においても。
 そんであの恐怖です。だからね、今までのファンタジー映画だと、どこかしら安っぽかったり設定が甘かったり演技に集中力がなかったりで、そこまで真剣に見ることはできなかったのよね。でもこの映画はどれも本物に極限まで近づけているでしょう。敵が着ている鎧や槍や、敵に襲われるきれいな都市や、飛び回るワイバーンや闊歩するで象の怪物とか、ほんとにCGも実物も本物の雰囲気を醸し出していて、嘘みたいな緊迫感があります。どうせ空想上のものだからという心構えではなくって、ここまで道具を揃えたら俳優だって真剣になるよそりゃあね。小津監督が撮影で使うお皿とかにすんごい高価なものを揃えたみたいなもんです。映画ってものはやはりどこまで「ほんと」に近づけるかが勝負なわけで、その点でこの映画は一切妥協をしていない。その真摯さにとても心撃たれます。人物がしゃべる「エルフ語」や歌や音楽、全編で使われているけれどけっしてそれ自体が目的ではない精巧なCG、特殊なメイク、衣装や持ち物、化け物の顔、果ては地面の岩やそこらに咲いている花まで、すべてがトールキンの世界を現実に再現するために注意深く作られているのです。うーん、これに捧げられた労力のことを思うとめまいがします。なにせ空想の世界のものだから全部この映画のために作られたものでないと使えない。だから、この映画の真の制作者は、それらのデザインを決定したコンセプチュアル・アーティストたちだとも言えるのです。DVDをかってボーナスDVDを見ると、その辺のことはよくわかるので、人類史の記録の一つとしてぜひ見てください。
 クモさんとの戦いのシーンと、ながいながいペレンノール野の戦いのシーンが第三部では一番見せるシーンですが、クモの動きや造形の見事さにはクモへの執念(怨念?)めいたものまで感じて面白いですし、人間(一部亡霊)対化け物たちの戦いは実写ではない戦争の映像としてほかに例がないほど大規模だ。そのすすみ具合がすごい面白い。はじめは要塞でもある岸壁に作られた美しい町が敵によってどんどん破壊され、ついでとんでもなくでっかいトロールたちによって城門が破られて侵入されたり空から飛ぶ化け者に襲われたりするのをアクロバティックな空中移動撮影で写して、さらに外からローハンの騎士たちの救援があって騎士と敵の歩兵の戦いになって俄然疾走し始めた視線で敵を見下ろして、するとでっかい象がでてきて今度は上をみながら右へ左へとかけぬけて、エルフが象にくるくる飛び移って倒しちゃったりしてると、悪の大王(でも子分)と女性のかちでの戦いになってだいたい終わり……。文字通り映像のジェットコースター。ここの見せ方はほんとにすんごい凝っていて素晴らしい。第二部の戦いよりも見応えがあるほどだね。敵の軍勢や見方のそれの数なんかを上から視覚的に捕らえることができたりして(文字通り平原を埋め尽くす軍勢なの!!)、なんかほんとに小説の中の世界にいるみたいです。うーむ。人類は偉大だ。いや、ミナス・ティリスの人々の恐怖感やエオウィンたちらの信じがたいほどの勇気なんかがすごいはっきり分かるんです。恐怖がわかるからこそ彼らの勇気がわかる。だって、アングマールの 魔王に襲われそうになったとき、しょんべんりちびりそなほど怖かったんだもん、そいつにケンカをうるエオウィンはやはりエラかったんたんだと。なんかmanじゃないから倒せた、みたいなケガの功名やことばあそびのようなものでないってことが理解できましたです。
 これだけ観客に戦争の恐怖というものを体験させているのだから、これがブッシュの戦争支持映画だとか言う人は、そもそもこの映画にまるで向き合っていないとしか思えない。情けないなあ、こんだけ無駄にお金をかけた映画がただのプロパガンダ映画であるわけないじゃん。確かに戦争に進んでいくっていう筋はあるけれど、その戦争が現代の戦争を指しているわけではないよね。正しいことのために命をかけるっていうのは(言葉通りの行動でなくとも)現代に生きる英雄にも必要なことなのよ。んで、私が一番好きとも言えるシーンはセオデン王がペレンノールで兵士を激励するところ。あの「死だ」とかいうセリフは、伝説に出てくる王様が言うような由緒ある(?)式のセリフらしい。そう、これは伝説の物語なのだから、そういう雰囲気を十分に出せばいいのだ。ここでセオデン王はすんごい輝いていた。素晴らしい。このシーンはやっぱりシネスコでないといけませんよね。すごい臨場感だす。
 それで戦争シーンのCGふんだんに使ったカメラワークはすごいって話したっけ? そう、CGはこういうありえないカメラワークを見せるためにけっこう普通の映画でも使われるようになったよね。うーん、ほんとにすごいぞ、この空中移動は。でもね、この映画の最大の欠点はクローズアップが多すぎることだよね。まあ、これは才能の問題なので監督一人の問題だと思うんですが……確かに人物の感情の動きに大きすぎる舞台仕掛けがおいつかなくなるっていう心配はあって、だからクローズアップで観客に人物に引き戻させているのだろうけど、これはちょっとひどいよね。ほかにもセリフとかちょっとした仕草とか原作にはないやりとりとかで表現できるものなのになあ。クローズアップなんて一番才能のない人がとる方法だよ、人物の感情表現としてね。第三部はこれが今までで一番多かった。ほかにもいいシーンがけっこうある(ガンダルフがけふけふいいながらたばこ吸ってるとことか)だけに残念です。まあ、こういう監督の「やらせ」みたいなところには目をつぶって、もっと映像に目を向けるのが三部の正しい見方なんです。
 映像的にやはり映画ならではと思ったのが、あの空にばうーって光が登っていくシーン。あれは原作でも重要なところなんだけど、フロドたちとガンダルフたちが同時に別々の遠く離れた場所であれを見ているというのがちょっとした驚きとともに体験できた。そうか、あんなんだったんだ。あとはもちろん狼煙のとこ。上手いのは狼煙の地点から別の狼煙の光を撮影しているところで、画面に一点だけ光が見えるのがよいのだ。雪山のところをどうやって作ったのか知らんが狼煙がともっていくのを空から写しているところぞくぞくする。あれはほんとに美しいシーンだよね。
 

関連するトールキンの本など紹介しちゃいます

指輪物語関連

『ホビットの冒険』、The annotated hobbit

 フロドのおじさんビルボ・バギンズの冒険物語(映画の中でビルボが持っている本)。これは指輪の前に書かれたものだし、指輪の前に読むべきなんだけど、普通みんな指輪の後に読むんだよね。これはそれ自身で面白い話だし、指輪もこれを知っていると楽しい部分もある。特に第一部のトロールとかドワーフ関連のとこ。注釈版はなんかすごいらしいけど、翻訳はだめだめらしいですな。瀬田貞二の翻訳はホントに素晴らしく、児童文学に優れた訳者が多いことは文化的に誇れることだと思います。

指輪 

旅の仲間 

I don't know half of you half as well as I should like and I like less than half of you half as well as you deserve(ここにおられる半数の方々に対しては、存じ上げたいと思うことの半分しか存じ上げておりません。また皆さんのうち半数以下の方々に対しては、その方々が受けてしかるべき好意の半分しか抱いておりません)という面白いセリフがあるのはこの巻。第一部は第二部や第三部とかかなり雰囲気が違っており、中つ国の名所巡りかつそれに関連する故事の紹介といった感があり(『シルマリル』などを読んでおくとこのへんはさらに楽しいでしょう)、登場人物もしょっちゅう詩を歌っている。危険な旅なのに同時にかなり雅な趣がある。トールキンの制作目的が、当初は自分の作り上げた世界を紹介することにあったことが伺えるが、同時にすごい歴史や文化を愛するっていうイギリス的な香りもして、独特な味わいがある。しかしトールキンがはやがて自分が新たに語り出した物語に深く引き込まれていき、第二部以降はそういう雰囲気は薄れていき、より過酷で厳しい物語になっていく。はじめのホビットの紹介のところを飛ばしても読めちゃうのは以上のような理由があるためです。

二つの塔 

 第二部。二つの塔とはオルサンクとミナス・モルグルのことで、二手に分かれた旅の仲間の行き先を示すとともに、両者がここで立ち向かっていく悪を示してもいる。つまりサウロンとサルマン。ってことに読み終えただいぶ後に気づいたものだったよ昔ね。第一部と違って物語はどんどん進んでいくし、二手に分かれたパーティーの話が交互に語られるので、読み手はフロドはどうなったんだろう、メリーピピンはどうなるんだろうと思いながらどんどん読み進めちゃうので、この巻に取りかかるとみんな夢中になって読んぢゃうでしょう。ゴクリとサムの重要さが際だってくるところでもあるし、不思議な運命というものも、個人の意志の強さというのもの大きく問題になる巻でもある。いやーとにかく物語の勢いがすごい巻ですな・・・

王の帰還 

 王ってなんのことか子供のときには分かんなかった記憶があります……。驚愕のラストが語られる第三部。物語のスピードはさらに強まって、メリーとピピンも離ればなれになって、絶望の中でもそれぞれがそれぞれの戦いを進めていくという悲壮だが真に英雄的なテーマが明確になる。旅が終わった後もけっこう詳細に語られていて、単純なヒーロー物語ではありえないその結末に涙しない人はいません。

ビルボの別れの歌―灰色港にて、岩波書店

 これ以降の指輪関連本はトールキン自身の原稿や草稿をもとに、彼の死語出版されたものです。この本は、旅立ちのときのビルボの脳裏をかすめる思い出を絵本にしたもの。元ネタは上の二つの作品です。

『シルマリルの物語』、 The Silmarillion

 指輪物語のベースになっている神話や歴史を語ったもの。世界の創世からアルノールの王国の話まで、中つ国を詳しく知るにはまずこれから。小説というよりは、中つ国に関する一種の研究書といった感じ。

終わらざりし物語』 Unfinished Tales 、

 トールキンの草稿をもとに中つ国の神話をさらに紹介したもの。息子さんの注釈付き。トールキアンの必読書。こんなものまで翻訳されるってことが、映画がいかにトールキンファンを増やしたかってことの証拠ですねえ。

History of Middle-Earth

 うーん、すごすぎ。全十二巻。個々のトピックについてさらにいろんな草稿から紹介している。これに手を出す人は立派なマニアか、研究者ですね。

農夫ジャイルズの冒険、評論社 A Tolkien Reader

 これはトールキンの子供のために作られたファンタジーの短編集。指輪とはかなり違うタイプの話ばっかりで、こころにしみいるような珠玉の物語が語られている。これを読むと、「普通」のファンタジー作家としてもトールキンは超一流であったことが分かる。個人的には子供の時に出会ったおもいで深い本として永遠の輝きを放ってます。

仔犬のローヴァーの冒険、山本史郎訳

 なんと97年にようやく出版されたらしいトールキンの短編集。こんなのあるのしらなかったよ。でも訳者が問題かな。

サー・ガウェインと緑の騎士 トールキンのアーサー王物語

 イギリスの有名な伝説をトールキンが語りなおしたものらしい。

ブリスさん、

サンタ・クロースからの手紙、評論社 Letters from Father Christmas

 トールキンがクリスマスに毎年子供たちに書いた「サンタさんの手紙」を本にしたもの。邦訳はダイジェスト版になっている。子供のサンタを信じる心をトールキンはすごく愛していたからこそ、こういうことが出来たんでしょう。実際、トールキンこそサンタの国から使わされた使者に違いありません。

妖精物語の国へ、ちくま文庫、

 トールキンのエッセイ集。トールキンがどういう考えをもってファンタジー小説を書いていたのかがわかる。というより、ファンタジー論として第一に挙げるものですな。

トールキンの原書に関してはリストを作ったのでここをご覧ください。

参考文献などなど

トールキン指輪物語事典

The Atlas of Middle-Earth「中つ国」歴史地図 トールキン世界のすべて

指輪物語 フロドの旅「旅の仲間」のたどった道

トールキンによる『指輪物語』の図像世界(イメージ)

『指輪物語』エルフ語を読む 

『J.R.R.トールキン―或る伝記』ハンフリー カーペンター

リンク集

The Wind in Middle-Earth ミドルアースの風  一番お気に入りのサイト。すごく原書を理解していて、細かいつっこみが度を超している。重箱つんつんにびっくりするし、エルフ語の講座も感激だけど、字幕うんぬんのとこもすごい。"Yet the way of the Ring to my heart is by pity, pity for weakness and the desire of strength to do good."や"If by my life or my death I can protect you, I will. You have my sword."の解釈。それに"The quest stands upon the edge of a knife. Stray but a little, and it will fail to the ruin of all. Yet hope remains while company is true."と"Not if we hold true to each other."が呼応関係にあることの読解などいやはやなかなかのものですよ。必見

指輪物語[美形以外も] このサイトでは字幕改善連絡室を作っていて、そこに字幕の問題点指摘の形で第一部の映画の脚本 と字幕が載っています。グッジョブ!

「指輪物語」原書読破支援サイトSTAR DUST指輪館  ここでは原作から抜き書き形式でトールキンの原文を紹介してくれています。映画のあのセリフが原文でどうなっているのかも確かめられます。グッゥジョブですな

馳夫&チェリー ファンタジーネット 物語の地図が載っている

preciousは私の好きなfaceの別サイト。DVDに関して詳しい紹介が載っている。

来し方の月行く末の星  始まりのそしてあらかじめ失われた物語

日暮れの塔の小さな本屋

赤龍館

Council-of-Elrond.com Imladris.net LotR Movie Transcripts 

 

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