四月の雪

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ホ・ジノ『四月の雪』外出(製作総指揮 キム・ドンジュ、製作 ペ・ヨングク、脚本 シン・ジュノ / イ・ウォンシク / ソ・ユミン / イ・イル / ホ・ジノ、撮影 イ・モゲ、美術 パク・サンフン、音楽 チョ・ソンウ、衣装 キム・ヒジュ、出演 ペ・ヨンジュン / ソン・イェジン / イム・サンヒョ / キム・グァンイル / チョン・グックァン / リュ・スンス)韓国、2005

 うむむむ、微妙な映画だ。もちろんこれは、普段ヨン様ファンやってる軽い人たちに、こんな重厚な映画もあるんですよ、っていうことを教えたという点では教育的な役割を果たしたし、みんな深い次元でけっこう感動したみたいだから、いいと思うんだよね。まあ、中には、映像もちゃんと見ないで「なんだこの薄っぺらい脚本は!」とか「陰気でいらいらする!」とか叫んでいる人たちもいるんだけど、そういう人たちは本質的に映画とは無縁な人なのでここでは問題にしません。

 んが、私は上のような相対的な評価ではなく、あくまで絶対的な評価をする人間です。だから、ちょっと言わせてもらおうではないか。この映画の欠点は二つある、監督にとって重すぎるテーマを選んでしまったこと、それにペ・ヨンジュンね。
 この監督、才能はあります。日本の犬童一心や行定勲なんかと比べると明らかにあることが分かります。演出も上手いし、細かなエピソードの積み重ねも上手い。んが、ちょっと分かりやすいうまさなんです。鏡やガラスの効果的な使い方とか、そういうのは上手いんです。でも、最近の韓国映画のほかの優れた監督たちがもっているような、ちょっと想像を絶するようなところがないんですね。つまり、古典的なんです。前の二作はそれがうまく機能していた。ささいな人の心の動きを表すのはほんとに上手いから。でも、この映画はちょっと題材が大きすぎるような気がするのね、この人には。いろんなところですごい上手いんだけど、不倫していた妻が事故って意識不明の最中に、妻の不倫相手の夫の妻と不倫して、まあそこまではいいんだけど、妻の意識が戻ってからの心の動きの描写がひたすら弱い。これ、もっと極端で激しい心の動きがあると思うんだけどなあ、想像を絶するような。でも、主役の二人とも、見ていて理解できるような心の動きしか見せないんだよね。んで、四月の雪が降ったからっていきなり決断するってのは、なんだかなあ。そのへん、いろいろあったはずの葛藤とか、もうちょっと見せてほしかったのよ。照明技師の仕事風景とか余計なもの入れなくていいし、構図とかにそんなこだわんなくてもいいから。途中、意味のない手持ちカメラの使い方をしたのも、ちょっとこの監督、明確なビジョンがなくなってるんではないかと思ったよ。これ、「アントニオーニと比べると落ちる」と言っている人もいて、それは厳しいけどまあそうなんだろうな。でも、主役にも問題があったことは確か。

 ペ・ヨンジュンは演技できない人だって、そんなこと分かり切っているのに、なんでこのひと使ったんだろうなあ。まあ、嫌な予感はしたのよ。次作はヨン様主演だって聞いたときからね。でも、一番このことで苦労したのはもちろん監督で、あまりにヨン様が気に入らないから撮影中激怒しまくっていたんだって。まあ、ヨン様ファンのために一応フォローを入れておくと、台無しにしてしまうほど悪い演技ではなかったかもしらん。でも、この作品の一番おいしいところを表現できなかったというか……やっぱり台無しか。まあ、彼の雰囲気がこの役にはあってるんだろうけどね。イ・ビョンホンとかよりかは。でも、も一回ユ・ジテ使ってもよかったのではと思うんですね、どうしても。ま、冬ソナでもチェ・ジウのほうがはるかに素晴らしい演技をしていたと思う私は、どうしてもヨン様への点は辛くなる。

 でも、それも相手役のソン・イェジンがよすぎるからかな。『永遠の片想い』でも素晴らしかったこの女優さん、ほんといいんですね。今回はなんと濡れ場までやってくれていて嬉しい限りなんだけど、あのシーンも心のふるえが伝わってくるような感じで、すごいよかったですね。前半の硬直した表情もすごいうまかった。まあ、ちょっとヨン様と演技力が釣りあわなかったのがこの人の不幸なところで、やはり主役二人ともいい演技を見せないと、なかなか難しい。ほんと不幸だと思います。

 三作目にして、やはりちょっとその古典的すぎるところが目についてしまったホ・ジノさん。小津を尊敬しているというけれど、小津は異常な、すごい突飛で風変わりな演出をするのに、この監督はそういう点での面白いところが全然ない。やはり、明らかな才能があってちょっと演出が上手い、程度では映画史(私的映画史ですけどw)には残らないのだろうか。なんと厳しい世界であろうか、映画というものは(自己完結)。でも、せっかく才能あるんだから、もっと殻を破ってほしいです、この人には。ポン・ジュノとか、キム・ギドクとか、チョン・ジェウンをもっと見習ってほしいな。好きな作風を持っているだけに、期待してしまいます……

 

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