The Merchant of Venice

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マイケル・ラドフォード『ヴェニスの商人』The Merchant of Venice(製作総指揮 マイケル・ハマー / ピーター・ジェームズ / ロバート・ジョーンズ / アレックス・マーシャル / ジェームズ・シンプソン / マンフレッド・ワイルド、製作 ケイリー・ブロコウ / マイケル・リオネッロ・コーワン / バリー・ナヴィディ / ジェイソン・ピエット、脚本 マイケル・ラドフォード、原作 ウィリアム・シェイクスピア、撮影 ブノワ・ドゥローム、美術 ブルーノ・ルベオ、音楽 ジョスリン・プーク、衣装 サミー・シェルドン、出演 アル・パチーノ / ジェレミー・アイアンズ / ジョセフ・ファインズ / リン・コリンズ / ズレイカ・ロビンソン / クリス・マーシャル / チャーリー・コックス / ヘザー・ゴールデンハーシュ / ジョン・セッションズ / アラン・コーデュナー)2004

 これ、映画化されるのは珍しいみたいですね(もちろん、映画創世記の歴史に残っていない短編とかであった可能性はあるのだけれど)。確かに、これは映像で撮るにはちょっと焦点がぼやけちゃうような類の作品なんです。途中で挿入される駆け落ちの話とか、本筋に関係ない部分がもりあがらないし、見せ所は箱選びと法廷シーンだけ。あんまり面白い素材じゃないのは確か。でも、シェイクスピアもほとんど最近映画化されてるし……と思ったら『リア王』最近ないじゃん。ま、あれはそう簡単に映画化されちゃあ困るけど。
 そんなわけで、アル・パチーノをシャイロックにすれば何か面白いかも……という程度の動機で作られただろうことは想像がつく。これみて、ユダヤ人差別に焦点をあてただの、民族間の平和を訴えているだのとかいう人はちょっと正常な感覚を失っているとしか思えない。シェイクスピアの作品が登場人物みなその心情をよく映画いているのは当然で、彼の意図を超えて「かわいそうな」部分がシャイロックのセリフににじみでているのは、ちゃんと原作読めば誰でも気づくこと。んで、ちょっとシャイロックやられすぎだよね、つうくらいの批評ならたくさんある。んが、この映画ではシャイロックへの憎しみの部分を描くのにちょっと力を入れすぎているかなあという気がするのね。それが全体のバランスを壊しているから、あまりにシャイロック焦点解釈みたいな見方をされちゃう。それってやりすぎって感じ。確かにシャイロックは原作にないセリフをしゃべっているわけではないんだろうけど、あまりに彼の演技が迫力あるのと、あまりに彼の心情に移入できるよう撮り方をしちゃっているんだよね。今にも殺そうとするシーンなんか、シャイロック応援しちゃうでしょ? 裁判での視点は明らかにシャイロックに偏りすぎている。うーん。
 で、その次の指輪を巡っての騒動がいかにもオ間抜けに見えちゃう。照明が薄暗くなっているシーンだし。なんかシャイロックをやっつけたという爽快感がないせいか、すっきりしない。あのどんでん返しを楽しむのがミソなのになあ。まあ、ほかはけっこう及第点かな。衣装とか。でも、駆け落ちの二人のエピソードはほんと添え物で、なんか意味ないなあ。どうも、監督さん、この作品にあんまり思い入れがなくて、どのへんに焦点をあてたらいいのかよく分かっていなかったのかなあという気がします。私はシェイクスピアと言えば、やはりケネス・ブラナーが一番ですけどね。あ、この映画で一番美しかったのは、最後の朝のシーンで、銀色の水面めがけて矢を射ているシーン、あれはほんとすばらしかったですね。とても幻想的で。

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