用語集

愛 amour, Liebe

 あたかも愛する者と愛される者だけが世界に存在するかのように実在すること。(レヴィナス)

 愛すること、それは自分の持っていないものを与えようとすること。(ラカン

 愛はすべての感情のうちで最も利己的であり、したがって、傷つけられるときには最も寛大でない(...est de tous les sentimanets le plus égoïste, et par conséquent, lorsqu'il est blessé, le moins généreux.)。(B・コンスタン)

 何人も自分の愛さない物のためには不安や心配に悩まされることはないし、また、もろもろの不法・疑惑・敵意などは、何人も真に確実に所有しえない物に対する愛のみから生ずるからである。(スピノザ『エチカ』第五部定理二十の備考)

永遠なるもの

 一つの民族は、ただし一個の人間もまたそうであるが、己が体験に永遠なるものという刻印を押す能力をどの程度に有しているかという、もっぱらそのことに従って、まさにその価値が定まるのである。(ニーチェ『悲劇の誕生』)

エクリチュールのはじまり

 人はけっして他人のために書くのではないこと、何を書こうとも、そのことでいとしい人に自分を愛させることにはならぬのだということ、エクリチュールはなにひとつ補償せず、昇華もせぬこと、エクリチュールはまさしくあなたのいないところにあるのだということ、そうしたことを知ること。(ロラン・バルト『恋愛のディスクール・断章』)

概念 conception, Begriff

解きほぐされていない〜

 晴れわたった夜、星しげき空をながめるとき、ひとは、ただ高貴な魂のみが感ずる一種の満足を与えられる。自然の一様な静けさと耳目の休らいのなかに、不滅な精神の隠された認識能力は、言いえざる言葉を語り、感受されはするが記述することのできない解きほぐされていない概念を与える。(カント 「天界の一般自然史と理論」)

書くこと ecrire

 書くということは、書かないということも含めて、書くということである以上、もう逃れようもなく、書くことは私の運命なのかもしれない。(金井美恵子『兎』)

神 Dieu

 唯一なる神にいたる道程には、神なき宿駅がある。(レヴィナス)

器官なき身体 corps sans organ

 器官なき身体は諸器官に対立するわけではなく、一なる有機体を構成する諸器官の組織化に対立するのである。器官なき身体とは、死んだ体ではなく、生きた体である。(DG、『千のプラトー』47)

言語 langage

 言語の本質は友情と歓待である。(レヴィナス)
 言語、それは理性と啓示の母、それらのα(アルファ)でありΩ(オメガ)。(ハーマン)

死者 mortel

 あたかも死者であるかのように、現在の瞬間が君の生涯の終局でもあるかのように生きよ。(マルクス・アウレリウス、VII56)

死ぬこと mourir

 絶え間なき切迫。しかしながらその切迫によって、は欲望しつつ続いていく。(ブランショ)

宿命 destine

 人間が自らについて行う自由な選択は、彼の宿命と呼ばれるものと完全に一致する。(サルトル『ボードレール』)

自由 liberté

 運命と自由は互いに誓いをかわしている。自由を実現した人だけが、運命に出合う。(ブーバー『我と汝』)

小説 roman

 書くという意志の総体(ロラン・バルト)

〜の使命

 物語りえないことの秘密を漏らすこと

生(人生) vie

 生は子どもの遊び。子どもの王国。(ヘラクレイトス、断片52)

現代におけるわたしたちの〜 notre vie moderne

 私たちは、私たちの外で、かつ私たちの内でこのうえなく機械的で極度にステレオタイプ的なもろもろの反復に直面しつつ、そうした反復から、絶えずいくらかのちっぽけな差異、ヴァリアント、そして変容を引き出している。――それが、現代における私たちの生であろう。
 しかしそれを逆に見れば、偽装しながら隠れているいくつかの秘めやかな反復が、ひとつの差異の永続的な置き換えによって活気づけられながら、私たちの内でかつ私たちの外で、機械的な裸の反復を再現しているのである。(ドゥルーズ『差異と反復』14)

〜の目的 le but de la vie

 愛することと働くこと(フロイト

精神分析 psychanalise

 科学が成立したのちに精神分析が創出された理由、それはについて話すということはいつになっても悦びであるからだ。(ラカン『アンコール』)

真理 vérité, Wahrheit

 ひとつの記述や判断や直感がもつ性質のこと。
 「事実」や現実性とは何の関係もない。
 また、「真実性」でもない。真実を語らずとも真理を語ることはできるのだから。(デリダ

成熟 maturité

 自分の口で語りうること。(レヴィナス)

責任 responsabilité, Verantwortlichkeit

 主題化不能な呼びかけに対する応答。(レヴィナス)

存在すること Sein

 存在することはあらゆる仕方でつねにあらゆるところで全ての言語を通じて語っている。(ハイデガー「アナクシマンドロスの言葉」)

他人 autrui

 その否定が全面的否定、つまり殺人としてしかありえないような唯一の存在者。私が殺したいと意欲しうる唯一の存在者。(レヴィナス『存在の彼方』)

 他者は、わたしの世界の主要な断片である(トゥルニエ『フライデーあるいは太平洋の冥界』)

魂 ame

 おのおのの魂には、それぞれ別の世界が属している。おのおのの魂にとって、すべての他の魂は、ひとつの及びがたい彼岸の世界なのだ。(ニーチェ『ツァラトゥストラ』「快癒に向かう者」)

知の先端 point de savoire

 ひとは、おのれの知の尖端でしか書かない、すなわち、わたしたちの知とわたしたちの無知とを分かちながら、しかもその知とその無知をたがいに交わらせるような極限的な尖端でしか書かないのだ。
無知を埋め合わせてしまえば、それは書くことを明日に延ばすことである。いやむしろ、それは書くことを不可能にすることだ。(ドゥルーズ『差異と反復』16)

乳房

女性の乳房において、飢えと愛が出会う。(フロイト『夢解釈』)

茶番 farce

 歴史上のすべての大事件や大人物は、言わば二度反復する。……最初は悲劇として、二度目は茶番(笑劇)として。(マルクス『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』)

哲学 philosophie/Philosophie

 に仕える愛の知恵。(レヴィナス)

〜の使命

 語りえないことの秘密を漏洩すること。(レヴィナス)

哲学者 philosophe/Philosoph

 最大限の責任を負う人間、人類の全発展に良心をもつ人間。(ニーチェ)

話すこと parole

 常に話すことによって投げ出された単なる記号を再びとらえること、話すことにおいて曖昧であったものを解明するという常に更新される約束。(レヴナス『存在の彼方』)

不幸

 

平凡さ banalité

 身体を伴なわない言述(ディスクール)のこと。(ロラン・バルト『彼自身によるロラン・バルト』)

無意識 inconscient,

 私たちの存在の核。(フロイト『夢解釈』)

ユーモア

 真のユーモアの中には、この世の営みが空しい茶番であり、それがわれわれの中の神的なものといかに不釣り合いであるかの認識が、必ず存在する。(コールリッジ)

読むこと lire

 さしあたり、書くことの後に来る行為。より慎しみ深く、より洗練された、より知的な行為。(ボルヘス)
 翻訳への途上でのみ起こる。翻訳不可能性を体験すること。(デリダ


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