『彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄』


 それやこれやで日は過ぎ去って、あっという間に十年が過ったのだなあ、と、私は夕陽で空に浮かぶ雲が東側でも南側でも西側でも、丸くもくもくした大きなかたまりになってバラ色に染っている夕方の空を眺め、ジュルジュ・サンドの『バラ色の雲』という短篇小説を、子供の頃読んだのを思い出した。バラ色の雲が存在しているわけではなく、それは夕陽の光を反射させてバラ色に輝いているだけなのに、そういった、あてどのない、美しくて華やかで輝かしくて荘厳な影にあこがれる田舎娘の話しで、私には何の関係もないのだけれど、巨大なピンクの綿菓子のようにバラ色に染まった雲を見ると、いつも、胸がわくわくするのだ。そこに夢見るものなんか、何もないけれど、薄い水色とごく薄い灰色と白の濁った空に輝いているバラ色の雲は、それが夜明けであれ夕方であれ、短い束の間の時間、幸福感で充たされる美しさで、私を呆然とさせてしまうのだ。

「二十一 生き甲斐」

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