『あかるい部屋のなかで』


 小さい時、あの倉は好きだった、高いところにある小さな窓からオレンジ色の光線が斜めにさし込んで、あたたかい日の光のなかで、透きとおった埃がゆっくりゆっくり舞いあがったり舞いおりたり、旋回運動、踊りをおどっているみたい、おもちゃの雪みたいだった、雪どけの季節は静かだ、あたりの空気がだんだんだんだんゆっくりとぬるくなって、からだが少しむずがゆくなる、寒さで固くこわばっていたからだ中の細胞がゆっくりゆっくりふくらみはじめる、木の新芽みたいに、みずみずしい水分と血がからだの奥で循環しはじめて、毎年毎年、春になると背が伸びたわ、大きくなる、少しずつ、大人になって行く、倉の窓にぶら下っていたつららが日にあたためられて溶けて、雫が規則正しい音をたてる、水滴がきらきら光る、凍って真白に氷の結晶の粒をつけてきしきししていたつららが溶けはじめる、日脚が伸びて、倉の壁に日の当っている時間が長くなって、そこいらじゅうのこわばりがゆるみはじめる、きしきししていたつららが水みたいに透明になって、真ン中のほうのまだ冷たく白い芯が透けてみえる、つららの表面が溶けて、濡れはじめ、すべすべしてる、水に濡れた肌みたい、日の光に当ってきらきらきらめいて雫が落ちる、本当に宝石みたい、水の雫みたい、夕日が当ると、透明なつららが薔薇色に輝いて、うっとりとしてそれを眺めていたわ、ほんとうにうっとりして、うっとりして……

「鎮静剤」

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