『花火』


 そう、<あなた>は言うのだが、むしろ、性急なのは<あなた>ではなかっただろうか。深々とした接触のなかで――指が血に濡れるほど深々と剣は牛の身体に突き刺されなければなるまい――<あなた>の身体は熱くなって溶けかかりながら、かろうじて、肉体のかたちをとどめている。ゴムのボールを二つこすりあわせるように慄えながら弾み、緊張の極点で、それがもう終わってしまうことの悲哀と、長く長く続く狂おしい幸福の不可能性が交錯する。<あなた>は爆発の寸前にいて、かろうじて肉体のかたちをとどめている溶けかかった別の肉体との境界を見失って境界を混りあわせながら、それでも、手や、そして全身で、もう一つの肉体に<触れている>。この、今の時間は−−時間と呼んでみることなど、実はもうとっくに無意味なことなのだが−−この、緊張の極点で昂る慄えの最後の甘美な痙攣の寸前で、半ば放心して呆然となりながら、狂おしい恍惚の最中で、<あなた>は何かが終りに近づいていることを鋭く意識して、身もだえるような悲しみとでも言うべきものに引き裂かれるのを感じる。<あなた>の腕と全身が深々と接触して、液体のように混りあっている肉体と。でも、まだ終ってしまったわけではなく、このひりひりと充電した瞬間につぐ瞬間の持続が、高熱を発している歓喜の過剰の充足が、まだまだつづくと<あなた>は慄えながら思う。痙攣の波状攻撃のようにして最も甘美な緊張と放心が同時に訪れ、あなたの全身から一本一本の指の先にいたるまで金色の雨が、奔出する。<わたし>は<名付けようのないもの>のなかで、<名付けようのないもの>となって、射精する。

「花火」

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