スクリーンで映画を見ることの快楽はテレビでは得られない――。金井美恵子はあろうことか、レーザーディスクのビデオ紹介にかこつけてそんなことを切々とかきつづっている。そしてスクリーンでしか堪能することのできない、ケイリー・グラントとゲイリー・クーパーの唇はどちらが官能的なのだろうか、とか、原節子のパール入りネイル・エナメルの光り方は異様だ、といった映画の細部に思いをはせる。  白眉はキアロスタミとのインタビュー。金井美恵子によるキアロスタミ映画の描写がすばらしく、映画が与える感動をなまなましく伝えている。たくさん挿入されている映画の写真も、そのシーンが『映画史』にでてくるシーンもけっこうあったりで楽しめる。