ニール・ヤング
Neil Young
(1945.11.12-)

 思うに、ニール・ヤング好きというのはロックファンの中ではちょっと孤立した嗜好をもっているのではないかと思う。それはひとえに、ニールファンは彼と非常に個人的な関係をもってしまうからではないかとも思う。たとえば、ニールファンの多くはニールファンではない人たちに彼の魅力を説明することにいくらかの困難を感じるのではないだろうか。もちろん、音楽に感じる魅力を言葉で説明するのはとても難しいものだが、ニール・ヤングに至ってはあまりにも欠点が多いので、どんな理由を挙げてもすぐに反論されそうだからだ。たとえば、「あのギターが独特でいいんだよね」と言うと「でもちょっとヘタだよね」とくるし、「あの少し幅広い声域をつかった声がいいんだよ」と言うと「どうしてデビューしてから数十年たっているのに音程はずすのやめないんだろうね」とくるし、「いやいや、魂からしてロックんあんだよ、ロックそのものでカッコいんだよ」と言っても、「ロックってコトバもう死語だよね」とくる。だがしかし、ニール・ヤングが抱えているいくつかの音楽的な欠点はそのまま彼の魅力そのものであり、彼の音楽はそうした技巧的な次元をこえた位置にある、とここで断言したい。世のニール・ファンよ、もうさまざまな非難中傷にひけめを感じる必要はない! 彼らはただ音楽というものをぜんぜんわかっていないのに過ぎないのだから!

 とはいえ、それでもやはりニールファンが孤立していることには変わりない。それは一つには、日本で最も権威のあるとされるブリテイッシュ・ロックと彼はほとんど関わりをもたないということにあるのかもしれない。よくクラプトンのギターと彼のギターなんかが比較されたりもするが、はっきり言って両者のギターには何の共通点もないので、比べることすら愚かである。クラプトンのギターに顕著な叙情性、ブルースへの傾倒はニールのギターからは微塵も感じられない。そういうことをぬきに技巧云々もないのだ。彼の音楽的バックグラウンドは主にカントリーにあり、60年代後期からアメリカンロックを席巻した南部音楽ともあまり関係がない。70年代のシンガーソングライターブームとも少し彼は違う位置にいた。さらに、クレイジー・ホースと作り上げていったメタリックなサウンドはのちに多くのフォローワーを生むが、同時に彼のボーカルがもつ叙情性も備えていたバンドは稀であろう。とは言え、70年代にはパンクへの共感を示したし、90年代にはグランジとの交流もあった。彼がアメリカンミュージックに与えた音楽的な影響はプレスリーをも下回らないという評価さえある。CSNなど少なくない数のミュージシャンとの交流や、ジャームッシュの映画音楽を手がけたりもした。しかしそれでもなお、ニール・ヤングがつねにシーンからほとんど関わりのない地点で仕事をしてきており、今後もそれは変わらないのだろうし、よってファンも孤立したままなのである。

 したがって、彼をロック史への貢献うんぬんで評価するのは見当違いだろう。しかし誤解を恐れずに言うなら、彼はロックミュージシャンのなかでも最も自分に正直にあり続けようとすることによって、70年代以降もロックすることが可能なことを身をもって体現した数少ない人物なのだ。ニールの歌声や曲には、聞き手に対する身構えや余計な意識といったようなものをほとんど感じることはない。これは最も優れたミュージシャンなら備えている資質なのだが、とくにニールの場合は自分と音楽にそうとう忠実であることが感じられるのだ。サタデーナイトライブに彼がでていたのを見たことがあるが、彼ほど聴衆を意識せずに一人ひたすらロックに没頭していた出演者はほかにいなかった。ニール・ヤングはあまり麻薬に溺れたとか言う話を聞かないが、それは、多くのミュージシャンが自分の自我を越えるために麻薬を使ったのに対し、ヤングは音楽そのものを通して彼の自我をつきぬけることができるのかもしれない。おそらく彼もまた偉大な先人たちと同じく、音楽を通して純粋にスピリチュアルな境地に到達している人間なのだろう。もっともそれだけに彼が次に何をするのかは誰にも分からないのだが……。MTVの授賞式で競演のパール・ジャムのエディ・ベターさえびびりまくるような常識はずれの轟音でギグしたり、変なコンセプトアルバムを今ごろつくって自分で映像までつけたり……。さてさて、彼の紹介を普通に書くと次のようになるだろう。

 ニール・ヤングはこの時代における最も赤裸々かつ真摯なミュージシャンであり、強い叙情性とエレクトリックな攻撃性を同時に併せ持つ特異なロッカーである。孤独な内面の告白である傑作『アフター・ザ・ゴールドラッシュ』、友人の追悼のために作った『今宵その夜』、アコーステッィクな側面とエレクトリックな側面が見事に呼応している『ラスト・ネヴァー・スリープス』や『ライブ・ラスト』、ギターノイズに包まれた情熱的な『ウェルド』など、彼以外のアーティストでは絶対に作れない味わいを持つ名盤が多い。アルバムではギターとピアノによるアコースティックな曲とエレキギターによる曲が入り交じっていることが多いが、完全にアコースティックなアルバムも何枚か作っている。また、その歌詞には強いイメージ喚起力があり、いくつか映画も作っている。

<アルバム紹介>

60-70年代のアルバム

80年代のアルバム

90年代以降のアルバム

リンク

Neil Young - Diskografie Teil 2

HyperRust- Album Index

Out of The Blue

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