伊藤比呂美
『伊藤比呂美詩集』 (1980年思潮社)

きっと便器なんだろう

ひさしぶりにひっつかまえた
じっとしていよ
じいっと
あたしせいいっぱいのちからこめて
しめつけててやる

抱きしめているとしめ返してきた
節のある
おとこのゆびでちぶさを掴まれると
きもちが滲んで
くびを緊しめてやりたくなる
あたしのやわらかなきんにくだ
やわらかなちからの籠め方だ
男の股に股が
あたる
固さに触れた
温度をもつぐりぐりを故意に
擦りつけてきた
その意志に気づく
わたしの股をぐりぐりに擦りつける
したに触れてくびすじを湿らせてやるとしたは
わたしのみみの中を舐めるのだ
あ声が洩れてしまう
髪の毛の中にゆびを差し入れけのふさを引く
あ声が洩れる
ぐりぐりの男は
ちぶさを握りつぶして芯を確かめている
い、
と出た声が
いたいともきこえ
いいともきこえる
わたしはいつもいたい、なのだ
あなたはいつもいたくする

さっきはなんといった
あいしてなくたってできる、といったよね
このじょうのふかいこういを
できる、ってあなたは

何年も前に、Iという男と
やったことがある
今、体温と体温がわたしのしりを動き
畳の跡をむねに
きざみながらわたしはずっとIを
わすれていたIを忽然とIを

Iの部屋Iによって
手早く蒲団が敷かれたこと
とうめいな
ふくろ、とか
こんなことやってきもちよくなるのかあたしはちっともよくならない
と言ったらIが
抜いてしまったこと
きもちよくならなくても暖かく
あてはまっていたのに
駅まで抱きあって歩いた風が強く
とても寒く
かぜがつよくとてもさむく
とてもさむく
そのあといちど会った腕に
触わらせてもらって歩いた
性交しないで別れた
それから
会うたびに泣いた、あこれはあなたに対するときだ
わたしをいんきだと言ったIの
目つきが残るそのIのことをずっと

あたしは便器か
いつから
知りたくは、なかったんだが
疑ってしまった口に出して
聞いてしまったあきらかにして
しまわなければならなくなった

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